中東かわら版

№114 アフガニスタン:ターリバーンとの和平交渉が一時休止

 2020年12月13日、アフガニスタン政府・ターリバーン両交渉チーム(以下、両チーム)は、アフガン暦1399年10月16日(西暦2021年1月5日)までドーハにおける和平交渉を一時休止すると発表した。

 今次発表の理由について、政府交渉チームのナーデリー報道担当は、今後行われる予定の和平交渉で議論されるべき「アジェンダ(議題)の初期リスト」を両チーム間で協議したが、両チーム内部において更なる協議が必要と判断されたためと説明した(注:ターリバーン側もほぼ同様の文言で発表)。共同発表といった形で両チームの足並みは揃っていることから、今次の一時休止決定は、和平交渉が決裂した故の「中断」といった性質のものではなく、第2ラウンド(来年1月~)での実質的な交渉に備えた準備期間確保のためと考えられる。

評価

 2020年9月に始まった和平交渉は、ようやく両チームが行動規範を策定(12月2日)し、議題作成に向けた協議の段階に至ったところである。ターリバーン側としては、ドーハ合意によって米軍完全撤退が約束されている中で、交渉を急ぐべき理由はどこにもない。アフガニスタン国内で治安情勢も悪化する状況下、それでも和平交渉の枠組み自体が壊れず、取り敢えずは3カ月間で議題作成の一歩手前まで漕ぎつけたことは一つの進展と呼べるだろう。

 こうした中、第1ラウンド(9-12月)で、両チームから譲歩の姿勢が見られたことは前向きな動きとして捉えられる。行動規範策定に至る過程で、アフガニスタン政府は自らが署名していないドーハ合意を交渉の基本に据えることに強く反対していた。この点が行動規範に含まれたことは、政府側の譲歩と呼べる。一方、ターリバーン側はハナフィー学派(スンナ派)を将来の国家体制の中心に据えたい意向であったのに対し、政府側はジャアファル学派(シーア派)等の少数宗派も含めるよう主張していた。この点に関し、交渉中に係争が生じた際には「合同委員会」を設置し、別途の協議を通じて解決するとして、今後に協議の余地を残したことからはターリバーン側が譲歩した形跡が窺える。

 他方、両チームからの要求事項を見る限り、各々が描く将来像の間には大きな隔たりが存在しており、今後を楽観することは難しい。政府側は、過去19年間に積み上げた実績の維持を根幹に、恒久的な停戦、イスラーム共和制・憲法・治安機構の現状維持等を主張している。一方のターリバーン側は、イスラーム統治の実現、シャリーアに従った教育機関の運営、勧善(アムル・ビル・マアルーフ)と名付けられる機関によるイスラーム法の施行を主張している。特に統治・司法のあり方の面で、両チームが妥協できる余地は少なく、協議は平行線を辿るだろう。

 また、ターリバーンは国内での軍事的成果を背景に、交渉において譲歩を強く迫るものと見られ、こうした硬軟両戦術により治安が悪化する可能性は高い。今後、米軍撤退とともに抑止力の減退・喪失が見込まれることから、全体的にターリバーン有利の状況が生じる可能性がある。日本を含めた国際社会は、アフガニスタン情勢を緊密にフォローし、適切な支援・関与を続ける必要がある。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「アフガニスタン:ターリバーンとの和平交渉が開始」2020年度No.77(2020年9月14日)

(研究員 青木 健太)

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