中東かわら版

№111 GCC:イラン人核物理学者の殺害に対する反応

 2020年11月27日にイランで起きた核物理学者モフセン・ファフリーザーデ氏の殺害に関して、GCC各国の外務省からこれを非難する声明が同月末に相次いで出された。各国の声明はいずれも暴力行為への反対、地域の緊張を高めることへの危惧の2点を述べるもので、当事国のイランが主張するような実行犯(イスラエル陰謀説)や報復の可能性については一切言及していない。

 

評価

 GCC各国の対イラン関係を大別すれば、①拡張主義的な外交政策で地域を不安定させているとして、対イラン強硬姿勢をとるサウジ・バハレーン、②脅威認識を公表する点でサウジ・バハレーンと足並みを揃えつつもイランとの一定の経済関係を維持・重視するUAE、③イランと外交・経済関係を維持するため、サウジ・バハレーンの対イラン強硬姿勢とは対立するカタル、④イランと外交・経済関係を維持しつつGCC内で仲介的立場をとるオマーン・クウェイト、という具合である。このように対イラン関係に差異が見られる一方、イランが過度に不安定化すればその影響がペルシャ湾を挟んでアラビア半島に及ぶとの懸念は、GCC各国に共通する。イランの拡張主義や核開発はさておき、サウジ・バハレーンですら、イランで要人が殺害されるという事象自体を批判する背景には、こうした共通認識が存在する。

 加えて言えば、イランが主張するように殺害事件を計画・実行したのが仮にイスラエルだとして、同国と国交正常化したばかりのUAE・バハレーンも本事件に早々に言及し、批判したことは、イスラエルがGCC諸国との国交正常化を一種の免罪符に域内での諜報活動を活発化させることへの懸念や警戒も抱いていることを示唆する。なお、イランと協力関係にあり、なおかつアラブ諸国とイスラエルとの国交正常化を公に批判するイエメンのアンサールッラー(通称フーシー派)は、本事件を「悪の枢軸シオニスト国家による蛮行」「イラン政府は報復する権利を有する」との批判声明を出した。

 

関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

「イラン:ファフリーザーデ核物理学者の暗殺」2020年度No.109(11月30日)

 <中東分析レポート>※会員限定

「中東各国におけるイスラエル・UAE国交正常化への反応」No.R20-08(8月26日)

(研究員 高尾 賢一郎)

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