中東かわら版

№108 アフガニスタン:ドナー国・機関の拠出金が減額しジュネーブ会合が閉幕

 2020年11月23-24日、ジュネーブに於いて「アフガニスタンに関する国際会合2020」(以下、ジュネーブ会合)がオンラインで開かれた。今次会合はアフガニスタン・国連・フィンランドの3カ国が共催する国際会合で、各ドナー国・機関(注:66カ国、32国際機関が参加)がアフガニスタンの民生支援に対して、今後4年間(2021-2024年)の拠出額を表明した。世界各地で新型コロナウイルス感染症が拡大し、ドーハではアフガニスタン政府・ターリバーン間の和平交渉が行われる中、今次会合ではドナー国・機関がこれまでと同水準の支援を続けるか否かが注目された。

 近年のアフガニスタン支援は、ボン会合(2011年)で宣言された「変革の10年」(注:2015-2024年に相当。アフガニスタンがドナー国・機関からの援助に依存せず自立するために充てられた期間)を基軸に進められており、今次会合は東京会合(2012年)、ブリュッセル会合(2016年)に次ぎ、「変革の10年」の最後の4年間を埋めるプレッジ会合との位置づけである。

 結果、ドナー国・機関は2021年に計33億ドル(約3435億円)/年間の支援を表明し、2021-2024年の4年間で計120億ドル(約1兆2490億円)が集まった。前回のブリュッセル会合では計152億ドル(約1兆5820億円)/4年間の支援が表明されたことと比べると、各ドナー国・機関の拠出金は前回より32億ドル減額した形となった。

 今次会合における各ドナー国・機関の拠出額一覧は下表の通りである。

 

表 ジュネーブ会合における上位10ドナー国・機関の拠出額(2021-2024年)

(出所)11月24日付『トロ・ニュース』記事をもとに筆者作成。単位:米ドル。

 

 今次会合の特徴は、多くのドナー国・機関が和平交渉の進展、及び、腐敗撲滅が実現すれば更なる拠出を検討する「条件付け」を行っていることにある。また、先立つ11月18日、ターリバーンは「イスラーム首長国」(注:ターリバーンを指す)名義の声明を発出し、過去、ドナー国・機関から送られた援助はカーブル行政機構(注:アフガニスタン政府を指す)の特定の人物のポケットに収められただけだと腐敗の蔓延を問題視し、「イスラーム首長国」と調整した上で真に支援を必要とするアフガニスタン国民に援助を届けるべきだと主張した。

評価

 今次会合は、ドナー国・機関が「変革の10年」が終了するまで、アフガニスタン政府に対する支援を継続する意思を示した点において一定の意義が認められる。一方で、ドナー国・機関の拠出金が減額するとともに、多くのケースで支援の「条件付け」がされている点に着目すると、各ドナー国・機関がアフガニスタンを再び国際テロ組織の安息地にしてはならないとの責任感を共有している一方で、これまでと同じ手法で援助し続けてもアフガニスタン政府の腐敗に繋がるだけではないかという不信感も抱えている様子が看取される。

 実際、2010年に発生した史上最悪の疑獄事件と言われる「カーブル銀行問題」に代表されるように、アフガニスタン政府の腐敗は深刻である。NGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」が発行する「腐敗認識指標2019」によれば、世界198カ国中、アフガニスタンは173位に位置する。アフガニスタン政府高官が横領した資金を、ドバイなどでの不動産投機で浪費したとの調査報道は後を絶たない。

 また、なによりも国民を置き去りにしたまま、既得権益の差配に終始するアフガニスタン政治のあり方は大きな問題である。大統領就任(3月9日)から8カ月以上もの月日が経過するにもかかわらず、組閣が完了していない冷徹な事実はアフガニスタン政府が機能不全に陥っていることを如実に示している。ジュネーブ会合の2日前(11月21日)、下院において閣僚10名が信任され、ようやく組閣に向けた動きが見られたが、これはプレッジ会合を控えて「国際社会」向けに体裁を取り繕った結果に過ぎない。

 今次会合に先立ちドナー国・機関が突きつけた支援条件、並びに、コミュニケを見ると、欧米を主体とするドナー国・機関は過去20年間に築き上げてきた民主主義、法の支配、基本的人権を継承するようアフガニスタン政府に要求していることがわかる。しかし、今後の和平交渉の結果次第では、現行のアフガニスタン政府の政治・司法制度が変わる可能性が存在しており、場合によっては国体すらも根本から変わりかねない局面にある。ジュネーブ会合の結果は、外部者が最善と考える「鋳型」にアフガニスタンをはめ込み、外部者の価値感を押し付ける同国での国家建設の手法に限界が来ており、このような流動的な現実に即して、ドナー国・機関による援助のあり方も変わる必要があることを示している。 

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「アフガニスタン:ターリバーンとの和平交渉が開始」2020年度No.77(2020年9月14日)

(研究員 青木 健太)

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