№107 イラン:ロウハーニー大統領がバイデン次期米政権に秋波を送る
- 2020イラン湾岸・アラビア半島地域
- 公開日:2020/11/26
2020年11月25日、ロウハーニー大統領が閣議において、トランプ政権下で著しく悪化したイラン・米国間の関係修繕を呼び掛けた。同閣議におけるロウハーニー大統領の発言要旨は以下の通りである。
- イランの歴史には2つの「聖なる防衛」がある。1つ目は、8年間に及んだイラン・イラク戦争(1980-1988年)である。2つ目は、トランプ大統領(2017年-)がイランに対して仕掛けている「経済戦争」である。
- 3年以上にも及ぶこの戦争の間、誰もイランに救いの手を差し伸べなかったが、イラン国民の努力と一致団結により、トランプ主義の終焉という形でイランの勝利に終わった。
- 次期米政権が、過去の過ちを償った上で、先ずはトランプ政権下での非人道的なテロ行為を非難し、そして4年間の間違った政策を変更するよう希望する。
- イランの基本的立場が「義務に対しては義務を」「行動に対しては行動を」「緊張緩和に対しては緊張緩和を」という比例原則に基づくことに変わりはない。次期米政権が態度を軟化させれば問題解決は容易である。
- イラン・米国両国は、2017年1月20日(注:トランプ氏の大統領就任日)の状況に戻ることを決断し、発表すべきである。そうすることで、現下の多くの問題を解決することが出来る。
評価
今次発言は、ロウハーニー大統領がバイデン次期米政権に対し、明確に秋波を送っている点で注目に値する。確かに、これまでもロウハーニー大統領は閣議(6月24日)やスイス外相との会談(9月7日)で、米国が諸条件(①イランに対する謝罪、②これまでに引き起こした損害の賠償、及び③イラン核合意(JCPOA)復帰)を満たせば、米国と対話をする用意があると発言しており、条件設定自体に特段の目新しい点は見られない。しかし、両国がともに未来志向で手を携えようと歩み寄る姿勢を鮮明にした点で、更に一歩踏み込んだ内容と言えよう。
他方、イラン・米国双方が歩み寄りの姿勢を見せている状況ではあるものの、今後を過度に楽観視することはできない。前日(11月24日)、ハーメネイー最高指導者は三権の長らで構成される経済調整最高評議会での演説で、米国からの経済制裁への対処法には①解除と①克服の2つがあり、イランはこれまで①に向けて米国との交渉を試みてきたが失敗に終わった、今後は②克服に向かって進むべきだとの考えを示していた。つまり、ハーメネイー最高指導者は、ロウハーニー大統領が2013年の当選以来推し進めてきた国際協調路線は失敗したとの認識を有しており、同指導者を支える革命防衛隊、及び、宗教界も同様の認識だと推測される。したがって、イラン国内でこれら勢力が中核を成す保守強硬派が台頭する現下の状況に鑑みれば、米政権が代わったからといって元の鞘に収まることは容易でない。
加えて、バイデン次期政権側も難しい舵取りを迫られる。何故なら、トランプ政権下でイスラエルやサウジは多大な外交上の利益を得ており、米国としてもこれらの国々に配慮する必要があるからである。トランプ政権下の厳しい経済制裁の影響で、イランの域内における対外政策は抑制的にならざるを得ず、結果、域内の力の均衡はイスラエルとサウジに傾いている。同様に、米国の仲介でUAE・バハレーン・スーダンのイスラエルとの国交正常化が実現しており、「イラン包囲網」が着々と進んできた。全体的に物事を優位に進めているこれら両国にとり、バイデン次期大統領によるイランへの関与政策は好ましくない。
今後、2021年6月にイラン大統領選挙実施が予定される中、イラン・米国双方がこうした様々な反対勢力に対してどのように懐柔策を打ち出し、説得できるかが焦点になるだろう。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「イラン:バイデン米前副大統領の対イラン政策」No.69(2020年9月3日)
・「イラン:ラトクリフ米国家情報長官がイランの米大統領選挙介入を糾弾」No.91(2020年10月23日)
・「イラン:米国が大統領選挙前に経済制裁を連続発動」No.94(2020年10月30日)
(研究員 青木 健太)
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