中東かわら版

№106 サウジアラビア:米国の「駆け込み外交」に期待すること

 2020年11月22日、ムハンマド皇太子は米国のポンペオ国務長官と北西部タブーク州紅海沿岸で建設中の産業都市NEOMで会談した。これに関して、海外ではイスラエルのネタニヤフ首相とコーヘン・モサド長官が参加したと報じられたが、サウジ側は23日、ファイサル・ビン・ファルハーン外相が「同会談に参加した外国人は、ポンペオ国務長官と駐サウジ米国大使のみである」として、イスラエル要人の参加を否定した。また、同会談ではNEOMの視察の他、二国間関係およびこれに関連する事案が協議されたとして、サウジ・イスラエルとの国交正常化について進展があった可能性を指摘する海外報道の論調についても否定した。

 

評価

 米国のトランプ政権は、大統領選挙での敗北が濃厚になるに伴い「駆け込み外交」と呼ばれる動きを示し、今回のポンペオ国務長官のサウジ訪問も、現政権の内にサウジ・イスラエルの国交正常化を仲介し、これを政権のレガシーにしようとの思惑が取り沙汰されている。一方でサウジ側は8月19日、ファイサル・ビン・ファルハーン外相がイスラエルとの国交正常化の可能性を否定した。具体的には、サウジは2002年に自国が提案した「包括的和平案」を基本的立場とするため、イスラエルの占領地撤退と、二国家解決案の実現が確約されない限り、イスラエルとの関係を見直すことはないとの立場を明言した。

 確かに、サウジが現在のイスラエル・アラブ諸国との国交正常化の流れにのるとは考えにくい。サウジにとっては、上記「包括的和平案」が直ちに実現されないとしても、せめて中東和平の進展の立役者を米国やトランプ大統領ではなく自国とするストーリーが用意されない限り、イスラエルとの国交正常化はハイリスク・ローリターンである。むしろサウジがトランプ政権の「駆け込み外交」に期待したいのは、10月に終了したイランの武器禁輸措置の再開や核開発に関する査察の強化を、国連やIAEAに促すことであろう。実際、武器禁輸措置解除以前から、ポンペオ国務長官の訪問直前にも国際社会にイランへの警戒を改めて呼びかけた。サウジとしては、こうした自国の意向を無視して進められる米国の「駆け込み外交」を優先することに多くのメリットを見いだせないのが現状であろう。

 

関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

「イスラエル・サウジアラビア・米国:ポンペオ国務長官のイスラエル・サウジ訪問」2020年度No.105(11月24日)

 <中東分析レポート>※会員限定

「中東各国におけるイスラエル・UAE国交正常化への反応」No.R20-08(8月26日)

(研究員 高尾 賢一郎)

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