中東かわら版

№105 イスラエル・サウジアラビア・米国:ポンペオ国務長官のイスラエル・サウジ訪問

 米国のポンペオ国務長官は11月18日から20日にかけてイスラエルを訪問し、その後、カタル・UAE・サウジアラビアを訪問した。サウジアラビアでは、ネタニヤフ首相とムハンマド・ビン・サルマーン皇太子の会談があったとも報じられた。以下は、ポンペオ国務長官のイスラエル・サウジアラビア訪問とこれに関連する出来事の概要である。

  • 18日、ネタニヤフ首相、バハレーンのザイヤーニー外相、ポンペオ国務長官の三者会談にて、「イスラエルとバハレーンの国交正常化はイランをかつてなく孤立化させた」と発言。
  • 18日、ネタニヤフ首相との会談にて、「イスラエル・ボイコット運動(BDS)は癌である。米政府はBDSを反ユダヤ主義に指定する」と発言。
  • 19日、米国の国務長官として初めて西岸入植地を訪問した際に、「米国に輸入する入植地産製品をイスラエル産と明記させる」と発言。
  • 19日、イスラエル占領下のゴラン高原を視察した際に、トランプ大統領が同地域はイスラエルの主権下にあると発言したことを称賛し、欧州諸国や米国内の「エリート」がシリアへの返還を要求していることを批判。
  • トランプ政権は、アブラハム合意(イスラエルとアラブ諸国の国交正常化合意)の促進を目的とする「アブラハム・ファンド」のトップにラビ・アリエ・ライトストーン氏を任命。同氏は、フリードマン駐イスラエル大使上級顧問で、イスラエルの右派団体「Im Tirtzu」に資金援助したことがある。(11月19日報道)
  • 20日、エルサレムで、キリスト教シオニストを称える「Friends of Zion博物館」を訪問。同館は、福音派でトランプ大統領の顧問のマイク・エヴァンズ氏が設立した。
  • 22日、サウジアラビアの産業都市NEOMを訪問し、同国のムハンマド皇太子と会談。その際、同国を極秘訪問していたネタニヤフ首相とコーヘン・モサド長官がムハンマド皇太子と会談したと報じられた。

 

評価

 今次訪問は、大統領選挙での敗北が確実とされるトランプ政権が、バイデン次期政権の発足までに中東政策での実績を残しておくための外交活動であると考えられる。特に、バイデン政権下で「後戻り」できないような「既成事実」を作ることが目的と思われる。

 トランプ政権は既に西岸入植地が国際的に違法であるとは考えないとの立場を表明しており、ゴラン高原におけるイスラエルの主権も認めている。今回のポンペオ国務長官の言動は、こうしたトランプ政権の親イスラエル的外交姿勢を改めて強調したものとなる。米政権がイスラエル占領地支配を承認したという前例を作ることで、イスラエル占領地の国際法上の違法性を指摘するバイデン次期政権はイスラエルとの関係において少なからず困難を伴うと予想される。政権終盤におけるトランプ政権の中東外交における実績作りは、次期政権に難しい課題を残すことになるだろう。このような視点から見ると、ポンペオ国務長官同席のもとで行われたとされるネタニヤフ首相とムハンマド皇太子の会談では、イスラエル・サウジアラビアの二国間関係の改善や強化などが話し合われた可能性はあり、バイデン政権の発足前に何らかの進展が見られることも考えられる。なお、イスラエル政府は首相とムハンマド皇太子が会談したとは発表していないが、リクード党のガラント教育相が軍ラジオで会合があったことを認めた。他方、サウジ外相は、ムハンマド皇太子とポンペオ国務長官の会談にイスラエル政府からの参加者はいなかったと述べ、ネタニヤフ首相との会談を否定した。

 ネタニヤフ首相側も、バイデン政権発足前に既成事実を作ることに努めているようである。11月15日、イスラエル政府は東エルサレムにおける大規模な入植地建設を発表した。また現地メディアは、ポンペオ長官の来訪時に、ネタニヤフ首相が同長官から東エルサレムでの入植地建設について承認を得たい意向であると報じていた。バイデン政権発足前に、首相が入植地政策を進めていく可能性は高い。

(上席研究員 金谷 美紗)

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