中東かわら版

№104 ヨルダン:下院選挙の結果

 2020年11月10日、ヨルダンで下院・代表議会(定数130、任期4年)の選挙が行われ、12日、独立選挙機構より選挙結果が発表された。定数130のうち、女性枠15議席、少数派枠12議席(キリスト教徒、チェルケス人、チェチェン人)が用意されている。選挙は非拘束名簿式比例代表制で行われ、全国23の選挙区(定数3~10)に294のリストが参加した。

 投票率は過去最低の29.9%を記録した。選挙前から、国民の政治的無関心や政府への不満、新型コロナウイルスへの感染リスクから、投票率が低下することは予想されていた。ヨルダン議会の特徴として、政府を支持する部族や地元有力者が多数代表されることや政党所属者の少なさがあるが、今回の選挙も同様の傾向が見られた。政治・議会問題省事務次官によると、当選者のうち政党所属者は16名である。独立選挙機構発表の選挙結果によると、最大野党のイスラーム行動戦線(IAF;母体はヨルダン・ムスリム同胞団)は前回選挙の15議席から約半分に議席を減らし、8議席となった。

 

評価

 ヨルダン政治における政治権力は国王に集中しているため、議会や内閣、首相に大きな権限はなく、下院・代表議会では親政府派の部族や地元有力者(実業家など)が多数派を占める。そのため議会選挙は形式的な意味合いが強いが、政府の支持基盤を観察・分析する機会でもある。今次選挙は過去の選挙と大きく変わらない結果であったことから、ヨルダン政治は安定性を維持していると理解できる。他方、選挙前の7月、IAFの母体であるヨルダン・ムスリム同胞団が裁判所から解散命令を受け、政府との関係が悪化した中で選挙を迎えていた。IAFの議席減はこうした文脈の中で理解できるだろう。

 現在、ヨルダンは新型コロナウイルスの急激な感染拡大局面にある。10月から新規感染者数が急増し、11月18日は1日当たり7933人を記録した。政府は議会選挙翌日から全土ロックダウンを開始し、感染拡大の抑制に必死である。10月に成立したハサーウナ内閣と今次選挙で成立した議会はまずは感染拡大の抑制に取り組み、そして増加した失業者の問題や累積債務の問題に対処しなければならない。

(上席研究員 金谷 美紗)

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