中東かわら版

№102 カタル:イスラエルとの国交正常化についての言及と背景

 2020年11月16日にオンラインで開幕した2020年グローバル・セキュリティ・フォーラム(※)のスピーチで、ムハンマド・ビン・アブドゥルラフマーン副首相兼外相は、イスラエルとアラブ諸国の国交正常化について、要旨以下の通り言及した。

●パレスチナ人のためにアラブ諸国が足並みを揃えられればより良い。足並み不一致は、パレスチナ・イスラエル間の交渉に向けたこれまでの努力を意味のないものとしてしまう。

●他方、UAE・バハレーン・スーダンのイスラエルとの国交正常化は、各国が何を最善と見るかを決定した結果であり、この決定は各国に委ねられる。

●カタルはイスラエルとの関係を、パレスチナ人への人道的支援等に限って維持する。同時にイラン・ハマースといった、イスラエルから見れば敵と位置づけられる相手とも関係を維持し、中東和平における二国家解決を支持し続ける。

●同様に、GCC諸国内の対立や一部GCC諸国とイランとの対立に関しても、あくまで当事国間の交渉によって平和裏に解決が探られるべきである。

※2018年以来、ニューヨークのNPO(The Soufan Center)とカタルのシンクタンク(Qatar International Academy for Security Studies)が共同で開催。

 

評価

 今年8月のUAE・イスラエルの国交正常化合意の発表以降、カタルはUAEに追従してイスラエルと関係構築することに否定的な態度をとってきた。今次フォーラムでは、国交正常化への明確な拒否が述べられた一方、イスラエルと国交正常化した周辺諸国への批判は避け、各国の主権ないし当事国間の関係を尊重する姿勢を示した。

 イスラエルとの国交正常化を拒否しつつ、これを実現した国々については意見しないとの態度は、建前としては各国の主権を尊重するというものである。しかし実際には、①周辺国がイスラエルとの国交正常化に向かう状況下、カタルはパレスチナ支援国としてのプレゼンスを高めることができる、②他国の主権尊重を訴えることで、GCC内関係や対イラン関係をめぐる自国の立場に諸外国が干渉するのを防ぎたい、等の点がカタル側の主張に読み取れる。とりわけ②については、米国大統領がトランプ氏であれバイデン氏であれ、カタル・米国関係の重要性は不変との趣旨の発言がなされたことから、米国の外交政策が今後転換する可能性もある状況下、この余波が周辺に及ぶことへの警戒もあると考えられる。

(研究員 高尾 賢一郎)

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