中東かわら版

№101 アフガニスタン:駐留米軍を2500名に削減へ

 2020年11月17日、米国防総省はアフガニスタン駐留米軍を4500名から2500名に、イラク駐留米軍を3000名から2500名に来年1月15日までに削減すると発表した。ミラー国防長官代行は、今次決定はトランプ大統領による戦争を終わらせるとの公約に則ったものであり、残留する米軍のミッション遂行への影響はないと述べた。また、同長官によれば、今次決定は撤回不可能なものでなく、米軍が危機に晒された場合には脅威を除くため変更もあり得ると付言した。これに対し、同日、NATOのストルテンベルグ事務総長は「性急で、調整を欠いた撤退の代償はとてつもなく大きい」と述べ、米国の決定を牽制した。また、身内である米共和党のマコーネル上院院内総務も、トランプ大統領の今次決定を「過ち」と断じ、任期満了前に外交・安全保障政策を急変させないよう警告した。

評価

 これまでも米国はアフガニスタン駐留米軍の撤退を早める姿勢を示していたが、今次決定により実行に移した形となった。この背景には、「米国にとって最長の戦争を終わらせる」との、トランプ大統領の選挙公約の実現を在任中に示す狙いがある。また、次期バイデン政権が外交政策を逆行させることを阻む目的もあると見られる。ドーハ合意後、アフガニスタン国内治安情勢は悪化の一途を辿る中、駐留米軍削減が力の均衡を変化させることは間違いなく、こうした抑止力の減退・喪失が更なる治安の流動化を招くことが懸念される。また、米国の後ろ盾を失うアフガニスタン政府が、カタルで行われるターリバーンとの和平交渉で主導権を失う事態も予想され、治安のみならず和平への深刻な影響もあるだろう。

 トランプ大統領は11月9日にエスパー国防長官を解任すると突然ツイッターで発表し、イランに対する軍事行動を検討する様子が11月16日付『ニューヨークタイムズ』記事で報じられるなど、外交・安全保障分野で活発に動き続けている。バイデン政権では米国内の分断や経済社会問題への対応が喫緊の課題となっており、外交・安全保障の優先順位は必ずしも高くない。こうした状況下、政権の移行を拒むトランプ大統領が、4年後の共和党政権復権を念頭に、次期政権に外交的負担を引き継ぐ意図を有する可能性は排除されず、任期満了まで充分な警戒が必要である。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「アフガニスタン:駐留米軍の撤退が一段と加速」2020年度No.75(2020年9月11日)

(研究員 青木 健太)

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