№96 アルジェリア:憲法改正が国民投票で承認
2020年11月1日に憲法改正に係る国民投票が実施され、国家選挙独立機構(ANIE)が2日、投票結果を発表した。賛成票が66.8%に達し投票総数の過半数を超えたため、憲法改正は承認された。投票結果と主な改正点は以下の通りである。
(1)国民投票の結果
有権者登録数 |
2447万5310人 (うち海外有権者登録数90万7298人) |
投票総数 |
563万6172票 |
無効票 |
63万3885票 |
賛成票 |
335万5518票(66.8%) |
反対票 |
167万6867票(33.2%) |
投票率 |
23.7% |
(出所)国営通信「APS」11月2日より筆者作成
(2)主な改正点
- 軍の海外派遣容認(第91条)
- 首相の名称変更(105条):議会選挙で大統領支持派が多数派になったとき、政府は首相(al-wazir al-awwal)が率いる。一方、議会選挙で議会内に大統領支持派以外による多数派が形成されたとき、政府は政府の長(ra’is al-hukuma)が率いる。
- 国会議員の三選禁止(第122条)
- 憲法評議会に代わる憲法裁判所の設置(第185条)
投票に際して、イスラーム主義政党の平和社会運動(MSP)やカビール地域政党の文化民主連合(RCD)などの主要野党は改正案に反対し、反政府勢力も投票のボイコットを訴えていた。また、今回の国民投票は新型コロナウイルス感染拡大の状況下で実施されたが、タブーン大統領自身も10月に感染が判明しドイツで治療中であるため、投票日は大統領不在となった。
評価
今回の国民投票について、特筆すべき点は投票率(23.7%)の低さである。昨年12月の大統領選挙時の39.8%から更に低下した。その要因として、国民が新型コロナウイルス感染症を懸念し投票へ行かなかったことや、反政府勢力によるボイコット運動が挙げられる。特に、カビール地域のティズィウズー県やビジャーヤ県での投票率は限りなくゼロに近いとの報道もある。カビール地域住民は歴史的に中央政府への対立姿勢をとっており、現在も反政府デモが活発的な場所である。
今回の改正点について、5月発表の草案から異なる点は、主に①大統領職代行規定(94条)の再修正、②野党から「政府の長」の任命の可能性、③国会議員の三選禁止条項の追加である。①に関して、草案では新設の副大統領が職務を代行する予定であったが、今回の改正では上院議長が従前どおり代行の役割を担う。草案が変更された背景には、副大統領が選挙を経ずに大統領に就任できる可能性に対する批判があったと考えられる。
②では、大統領を支持しない諸政党からも首班を選出できるよう政治改革を演出したに過ぎない。これまでの選挙では大統領支持派の民族解放戦線(FLN)及び民主国民連合(RND)が勝利し過半数以上の議席を占めたことから、野党連合が多数派を形成できる余地はなかった。そのため、次回の2022年下院選挙においても野党が多数派を形成するのは困難であると予想される。
③に関して、大統領と同様に、国会議員も連続または通算での任期が二期までに限定される。再選回数を積み重ねるほど、国会議員の既得権益も拡充することから、政府が国民向けの改革アピールとして追加したと思われる。今般、投票率は低かったが、国民投票を通じて憲法改正がなされたことによって、民意を問うという点では当初の目的が果たされた。しかし、権力分有や大統領権限の縮小に至らなかった点は課題として残った。
さらに、大統領の健康問題が注目される。タブーン大統領は息子を介して新型コロナウイルスに感染したと思われ、10月28日よりドイツ(ケルン大学病院との報道もある)で治療を続ける。過去にはブーテフリカ元大統領も健康問題を抱え、2013年に海外で長期入院した経緯があり、タブーン大統領が長期不在となる事態となれば、反政府勢力が彼の大統領としての正統性に異議を訴え、デモを活発化させる恐れもある。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「アルジェリア:憲法改正草案の発表」No.18(2020年5月13日)
・「アルジェリア:改憲に係る国民投票が11月1日に実施」No.68(2020年8月27日)
(研究員 高橋 雅英)
◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/