中東かわら版

№97 トルコ:アルバイラク財務相の辞任とエルヴァン新財務相任命

  

 2020年11月8日夜、ベラト・アルバイラク国庫・財務相は、自身のインスタグラムで健康問題を理由として辞任する意向を表明した(10日現在、同声明は削除されている)。国庫・財務省は同声明が、本人のものであると確認したとの声明を発表したが、その後しばらくトルコ政府からの公式発表は行われなかった。

 翌9日、大統領府通信局はアルバイラク氏の辞任を認めると発表し、エルドアン大統領はその後任として、リュトフィ・エルヴァンを指名するとの大統領令に署名した。

 新たに国庫・財務相に任命されたエルヴァン氏は、1962年生まれ、南部カラマン県出身の58歳。イスタンブル工科大学鉱山学部を卒業後、英国リーズ大学で鉱業および操業分野、米国デラウェア大学で経済学の修士号をそれぞれ取得している。2007年の議会選挙においてカラマン県で公正発展党(AKP)から立候補し初当選した。2013年から2015年まで運輸・海事・通信相、2016年から2018年は開発相を務めた他、経済協力開発機構(OECD)やEU等の国際機関で様々な役職を歴任し、財務相就任までは、大国民議会(国会)の計画・予算委員会委員長を務めていた。

  

評価

 

 今般の突然の辞任劇は、国内外で驚きをもって報じられた。アルバイラク前財務相は健康上の問題を辞任の理由としているが、それまで同氏が体調不良と報じられたことはなく、不可解な点が多い。一つ考えられるとすれば、アルバイラク氏の義理の父でもあるエルドアン大統領との確執である。アルバイラク氏が辞任を表明する直前の11月7日、エルドアン大統領は、中央銀行総裁のウイサル氏を更迭し、後任にアーバル氏を据える決定を行った。トルコリラの下落に歯止めがかからない責任をウイサル氏に押し付けた格好となったが、アーバル新総裁は、アルバイラク氏との不仲説がささやかれていた。自身と不仲と知りながら、アーバル氏を新総裁に据えたエルドアン大統領への反発とも考えられるが、政策金利引き下げを強硬に主張する同大統領と経済政策を巡って対立が生じた可能性もあるだろう。

 皮肉なことに、アルバイラク氏の辞任が発表された直後から、トルコリラはわずかながら上昇している。新たに財務相に就任したエルヴァン氏は経済の専門家であり、市場も期待を持ってみていると思われるが、低迷が続くトルコ経済を立て直すには、エルドアン大統領との調整がどの程度うまく図れるか、にかかっていると言えよう。

 

(研究員 金子 真夕)

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