中東かわら版

№94 イラン:米国が大統領選挙前に経済制裁を連続発動

 2020年11月3日の米国大統領選挙を控え、米国はイランの石油・石油化学製品部門に対して追加制裁を発動した。トランプ政権は、経済制裁を通じてイランの政策変更を促す「最大限の圧力」アプローチを投票日間際まで一貫してとり続けている。

 先ず10月26日、米財務省外国資産管理局(OFAC)は、イラン石油省、イラン国営石油会社(NIOC)、及びイラン国営タンカー会社(NITC)に対し、域内を不安定化させるイラン・イスラーム革命防衛隊の資金源になっているとして制裁を科した。また、ザンギャネ石油相を含め、これら組織と関連する複数の個人も制裁対象に指定した。

 続く29日、OFACは、イラン石油化学製品の販売・取引に関与したとして、イラン、中国、及びシンガポールに拠点を置く8企業にも制裁を科した。ムニューシン財務長官は、「イラン体制はテロ組織を支援するとともに自国民を抑圧しており、米国はその資金源を断つ姿勢を決して変えない」と述べた。これに合わせるかのように同29日、米司法省は、民事差し押さえに関する司法判決2件を発表した。1件目の差し押さえ案件は、イランからイエメンの武装勢力向けに海上輸送された大量の武器に関するもので、これら没収物資には過去に米当局によって差し押さえられた誘導型対戦車ミサイル171発、地対空ミサイル8発、及び大量のミサイル関連機材が含まれていた。2件目の差し押さえ案件は、イランがベネズエラ向けにタンカー4隻に分乗して輸送した精油110万バレルに関するものである。米司法省は、逮捕状の発行によりこの精油を販売し、売り上げをテロの犠牲者のための基金に贈与したと発表した。

 これに先立ち、22日、OFACは革命防衛隊、同隊ゴドス部隊、及び、フロント企業3社の計5団体に対して制裁を科した他、駐イラク・イラン大使(元革命防衛隊ゴドス部隊幹部)を制裁対象に指定していた(詳しくは中東かわら版「イラン:ラトクリフ米国家情報長官がイランの米大統領選挙介入を糾弾」No.91(10月23日)を参照)。

評価

 表向きは政治的動きと無関係との立場を示しているが、トランプ政権が投票日を目前に控える中で、このように制裁を連続発動することには理由があるだろう。第一の理由として、米国の内政要因が挙げられる。現在、再選を目指すトランプ大統領としては、自らの支持基盤である福音派やユダヤ系をはじめとする保守層からの支持を拡大させる必要に迫られている。23日にUAE・バハレーンに続きスーダンともイスラエルとの国交正常化を公表したことを見ても、親イスラエル・反イラン姿勢を鮮明に打ち出すことで米国内向けにアピールしたいものと見られる。今次制裁が発動されたもう一つの理由として、バイデン民主党候補が当選すればイラン核合意(JCPOA)に復帰すると公言する中、仮にバイデン陣営が勝利しようともそれを阻止したい狙いを有する可能性が挙げられる。

 イランにとっては、米国の意図にかかわらず、これ程までに攻撃的な態度をとるトランプ政権との対話を選ぶことはできない。このため、仮にトランプ大統領が再選すれば、少なくとも次の4年間は関係改善が見込ず、イランは窮地に追いこまれる。一方でバイデン候補が勝利すれば、米国との関係改善への道筋も見える。この意味で、11月3日はイランの命運を分かつ重要な分岐点になる可能性がある。

  

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン:バイデン米前副大統領の対イラン政策」No.69(2020年9月3日)

・「イラン:ラトクリフ米国家情報長官がイランの米大統領選挙介入を糾弾」No.91(2020年10月23日)

 

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「イラン・中国関係の進展と今後の展望」R20-10(2020年10月20日)

(研究員 青木 健太)

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