中東かわら版

№93 リビア:ジュネーブで停戦合意

 2020年10月23日、国連リビア支援ミッション(UNSMIL)はリビア内戦の両陣営が恒久的な停戦に向け合意したと発表した。今回の停戦合意は、トリポリ拠点の国民合意政府(GNA)とハフタル率いるリビア国民軍(LNA)の代表団から成る「5+5合同軍事委員会」の枠組みで実現した。今後、停戦合意の履行を確認するための政治協議「リビア政治対話フォーラム(LPDF)」が11月9日よりチュニスで始まる予定である。主な取り決めは、以下の通りである。

  • 3カ月以内に全ての軍事組織が最前線から撤退し、傭兵及び外国人戦闘員もリビアから退去すること。
  • 新たな統一政府が職務を担うまでの間、国内での軍事訓練に関する協定を停止し、軍事訓練担当者は国外退去すること。
  • 東西地域を結ぶ陸路の通行再開や捕虜交換、石油施設警備隊(PFG)の再編成を行うこと。

  ロシアは今回の停戦合意について、危機解決と政治対話の再開に向けての重要な一歩であると発表した。一方のトルコは、エルドアン大統領が停戦合意の持続性を疑問視した。さらに、GNAのナムルーシュ国防相も、正統性を持つ政府GNAと同盟国トルコ間の軍事訓練プログラムは停戦合意の対象外であり、トルコとの軍事協定を継続する見解を示した

 

評価

 今般のジュネーブ停戦合意は、GNAとLNAを代表する10人の将校らの署名によって実現したことから、両陣営からの停戦への意思を確認できる。その一方、両陣営の交戦は今年7月以降見られないため、軍事面での実質的な影響は限定的であり、むしろ今次停戦合意の真の目的は政治協議の場をつくる意味合いの方が強いと言える。しかし現在、政治協議としては別の枠組みも展開しており、モロッコで国家高等評議会(HCS、GNA諮問機関)と代表議会(HOR)が和平の実現に向け対話を重ねている。こうした政治協議の場が並立する状況は、GNA、東部勢力(LNAやHOR)とも一枚岩でないことを示唆しており、これが政治的解決を複雑にさせる要因となるだろう。

 今後の注目点は、「リビア政治対話フォーラム(LPDF)」を軸とした新たな統一政府が樹立されるか、である。国連はLPDFを新統一政府の基盤としたい考えであるが、GNA側が政府としての正統性を失うことを恐れ、GNA閣僚の一部やトルコが抵抗する可能性も考えられる。過去にも、GNAの正統性の基盤である「リビア政治合意(LPA)」において、全ての当事者が内容に同意しない状況下で一部の者だけが2015年12月に署名した結果、政治的混乱に拍車がかかった経緯がある。そして新政府の樹立に向けては、石油収入の管理やハフタルの処遇など諸問題に加えて、リビア情勢の行方を握るトルコとロシア間での合意形成も重要となるため、統一政府の実現への障壁は高いと考えられる。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「リビア:国民合意政府が停戦発表」No.65 (2020年8 月24日)

・「リビア:石油輸出の再開」No.82(2020年9月25日)

(研究員 高橋 雅英)

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