中東かわら版

№92 イスラエル・スーダン:米国の仲介で国交正常化合意を発表

 2020年10月23日、ホワイトハウスは米国の仲介でイスラエルとスーダンが国交正常化で合意したと発表した。トランプ政権が進める中東和平の枠組みでイスラエルとの国交正常化に踏み切ったアラブ諸国は、8月のUAE、9月のバハレーンに次ぐ3カ国目となる。トランプ大統領、スーダンのブルハーン主権評議会(暫定政府)議長及びハムドーク暫定首相、イスラエルのネタニヤフ首相による共同声明の要旨は以下の通り。

  • スーダン暫定政府はテロとの戦い、民主的制度の構築、隣国関係の改善に努めてきた。この歴史的進展に鑑み、トランプ大統領はスーダンをテロ支援国家リストから除外することを決定し、米国とイスラエルはスーダンとパートナー関係を結ぶことで合意した。
  • 米国はスーダンの主権免除を復活させ、債務免除を含め、スーダンの債務救済に向けて国際社会に働きかける。
  • 米国とイスラエルは、スーダンの民主主義、食料安全保障、テロとの戦いを支援する。
  • イスラエルとスーダンは、今後数週間以内に経済・貿易、農業技術、航空、移民問題などの分野で協力合意に向けて交渉を開始する。
  • 本合意によって地域の安全は向上し、スーダン、イスラエル、中東、アフリカの民衆は新たな機会を得るだろう。

 

評価

 イスラエル・UAE国交正常化合意が報道された際、スーダンについても国交正常化の可能性が取り沙汰されたが、同国暫定政府は否定した。しかし、今回、正常化合意に踏み切った理由には、スーダンが長年の制裁で諸外国と投資貿易関係を構築できず、経済的な苦境にあったためと言われている。上記共同声明で、スーダンがテロ支援国家リストから除外されたことで同国の債務軽減への道が開かれた点に、スーダンが国交正常化合意を決定した理由が見える。

 しかし、今次合意は、UAEやバハレーンのように、迅速にスーダン国内で承認される見通しは低い。合意発表後、スーダンのガマルッディーン暫定外相は、合意は現在形成中の「暫定立法評議会」で承認される必要があり、イスラエルと国交正常化が完了したわけではないと述べた。スーダン国内ではUAEやバハレーンよりも民衆、主要政治勢力の間で反イスラエル感情が強く、合意が国内で承認されるまでにある程度の政治的対立があることが予想される。さらに、現在は正式な政府を樹立するための不安定な移行過程にあることも、迅速な国内での承認を困難にさせる要因となっている。とはいえ、暫定政権期間中にイスラエルとの経済協力が進展する可能性もあるだろう。

 今後、さらにイスラエルとの国交正常化を選択するアラブの国が現れるかが注目されるが、トランプ大統領が11月の大統領選挙で再選された場合、国民の政治参加の程度が低く、反イスラエル感情が政治化されにくい湾岸アラブ諸国ではその可能性があると思われる。他方、「アラブの春」で政府批判を経験したマグリブ諸国では、イスラエルとの国交正常化は政治的なリスクが高いだろう。

(上席研究員 金谷 美紗)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP