中東かわら版

№91 イラン:ラトクリフ米国家情報長官がイランの米大統領選挙介入を糾弾

 2020年10月21日、米国のラトクリフ国家情報長官(元テキサス州下院議員、共和党所属。トランプ候補に近いとされる)は、レイ連邦捜査局(FBI)長官と緊急記者会見に臨み、イランとロシアが大統領選挙に介入したと糾弾した。ラトクリフ長官は、イランが米極右団体を装い有権者に対してトランプ支持を止めなければ「追い回す」と脅迫した、と名指しで批判した。翌22日、米財務省外国資産管理局(OFAC)は、イラン・イスラーム革命防衛隊(IRGC)、IRGCゴドス部隊、及び、そのプロパガンダ発信を担うフロント企業3社の計5団体に対し追加的な制裁を科した。また、OFACは22日、マスジェディー駐イラク・イラン大使(元IRGCゴドス部隊幹部)がイラクのシーア派民兵に対する訓練・支援を組織した嫌疑で制裁対象に指定した。

 これに対して、22日、イラン外務省はスイス大使(イランにおける米国の利益を代表する)を呼び出し厳重に抗議した。本件に関し、ハティーブザーデ外務報道官は以下の通り説明した。

 

  • イランは、米政府高官による陳腐で、捏造され、人を騙す主張を拒絶する。どちらの米大統領候補が勝利しようともテヘランには全く関係がないことを、今一度強調する。
  • 米国、及び同情報・治安機関は、他国での選挙介入でよく知れ渡っている。今般、米国が選挙直前に「根拠のない」主張を持ち出しているのは、自らの非民主的なプロジェクトを隠蔽し、他人に目を向けさせるためである。

 

 先立つ21日、ロウハーニー大統領も閣議において、「米国大統領選挙はイランにとって重要ではない、何故なら如何なる米政権もイランに対して降伏しなければならないからだ」との考えを示し、表向きは静観する姿勢を示していた。

評価

 米国はイランを名指しで批判しているが、「イラン」と一口に言っても、政府、IRGC及び傘下の部隊、フロント企業、あるいは、依頼を受けた個人ハッカー等、多岐に渡る主体に分類される点には留意が必要である。OFACは、IRGCのフロント企業であるとして、バヤーン・ゴスタル社(「表現の拡散」という程の意)、イラン・イスラーム・ラジオ・テレビ連合(IRTVU)、及び、バーチャル・メディア国際連合(IUVM)の3社を制裁対象に指定している。しかし、これら企業がどのように今次情報工作に関与したのか(あるいは関与しなかったのか)、また情報工作に実際に関与したハッカーがイラン政府の指示を直接受けたのかには議論の余地がある。指示経路が巧妙に隠されている可能性もあることから、全容の解明には時間がかかると見られる。

 現在、イランは表向きは無関心を装っているとはいえ、次期米大統領が誰になるかはイランにとって死活的に重要な問題である。イランが、米国大統領選挙の行方を緊密に見守っていることは間違いないだろう。他方、トランプ政権が終盤に向けて、対イラン強硬政策をオクトーバー・サプライズの一つとして打ち出す恐れも完全には排除されていない。このように双方が互いの存在を強く意識し合っている状況下、今後の米・イラン関係の展開には充分な警戒が必要である。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン:バイデン米前副大統領の対イラン政策」No.69(2020年9月3日)

(研究員 青木 健太)

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