№89 ヨルダン:ハサーウナ首相の任命と新内閣成立
2020年9月27日、任期満了に伴い下院が解散され、それと共にラッザーズ首相が辞任した。これを受けてアブドッラー2世国王は、10月8日にハサーウナ前国王顧問に組閣を命じ、10月12日にハサーウナ内閣を承認した。なお、ヨルダンでは首相及び大臣の指名は国王が行い、議会の同意は不要である。顔ぶれは以下の通りである。
氏名 |
役職 |
備考 |
ビシュル・ハサーウナ |
首相兼国防相 |
前国王顧問。外相(2016-17)、法相(2017-18) |
タウフィーク・クライシャーン |
副首相兼地方行政相 |
地方・環境・議会担当国務相(1994-2000)、議会担当相(2003,2009,2010,2011)、地方自治相(2005) |
アイマン・サファディー |
副首相兼外務・移民相 |
外相を留任。新たに副首相に任命 |
ウマイヤ・トゥーカーン |
副首相兼経済問題担当国務相 |
前上院議員(2016-20)。財務相(2011-12,2013-15) |
ムハンマド・ダウーディーヤ |
農相 |
青年相(1996-97)、議会担当相(2003-04) |
タイシール・ヌアイミー |
教育相 |
留任 |
ムーサー・マアーイタ |
議会担当相 |
留任 |
アリー・アーイド |
メディア担当相 |
駐米臨時大使(1997-2001)、 駐イスラエル大使(2006-10) |
ナーシル・シュライダ |
計画・国際協力相 |
前アカバ経済特別地区長官 |
ヤフヤー・キスビー |
公共事業・住宅相 |
元公共事業・住宅相(2011-13,2018) |
ナーイフ・ファーイズ |
観光・遺跡相 |
元観光・遺跡相(2015-16) |
イブラーヒーム・ジャージー |
首相府担当国務相 |
元法律問題担当国務相(2011-12) |
アフマド・ジヤーダート |
法律問題担当国務相 |
元首相府担当相(2013-16) |
バッサーム・タルフーニー |
法相 |
留任 |
マハー・アリー |
工業・商業・供給相 |
新任、元商業省高官、女性 |
ハーラ・ザワーティー |
エネルギー・資源・鉱物相 |
留任、女性 |
ムハンマド・イスイス |
財務相 |
前計画・国際協力相兼経済担当国務相(2019-20) |
ムハンマド・ハラーイラ |
ワクフ・イスラーム聖地担当相 |
留任 |
バーシム・ムハンマド・トゥワイシー |
文化相 |
留任 |
ナビール・マサールワ |
環境相 |
新任、元駐レバノン大使 |
アイマン・ムフレフ |
社会開発相 |
新任、元内務省高官 |
ムハンマド・ハイル・アブー・クダイス |
高等教育・科学研究相 |
新任、元ヤルムーク大学学長 |
マフムード・ハラーブシャ |
国務相 |
新任、元下院議員・弁護士 |
ナウワーフ・ワスフィー・テル |
行政調整・フォローアップ担当国務相 |
新任、元駐オランダ大使 |
タウフィーク・ハラールマ |
内務相 |
新任、元憲兵隊総務局長 |
ナジール・ウバイダート |
保健相 |
前感染症対策委員会報道官 |
マルワーン・ヒターン |
運輸相 |
新任、運輸企業出身 |
ムウタシム・サイーダーン |
水・灌漑相 |
新任、前ヨルダン大教授 |
ムハンマド・サラーマ・ナーブルシー |
青年相 |
新任、元外務省欧州担当局長 |
ラービア・アジャールマ |
行政パフォーマンス向上担当国務相 |
新任、元開発省高官、女性 |
マアン・カターミーン |
労働相兼投資担当国務相 |
新任、ドバイ大の元学部長 |
アフマド・ハナーンダ |
IT・起業担当相 |
新任、元大手通信企業ZainCEO |
評価
ヨルダンでは実務家・官僚経験者が多く大臣に任命される傾向がある。今回政府の報道官としての役割を担う要職のメディア担当大臣に、駐米臨時大使・駐イスラエル大使を務め、ヨルダン・イスラエル和平条約締結の際の交渉を行ったアリー・アーイド氏が任命された。ヨルダンと強く政治的・経済的に結びついているサウジアラビアを始めとする湾岸諸国とイスラエルの関係改善を踏まえ、イスラエルとの関係を重視していく姿勢が見て取れる。
内政面では、現在ヨルダンはCOVID-19感染者の急増に直面している。9月以降、感染者数が急増しており、最近1週間で日別新規感染者数が1000人を超え、累計感染者数は3万3009人になった(10月15日時点)。保健相に感染症対策委員会のスポークスマンとして国民の知名度が高いナジール・ウバーダート医師が任命されたことは、COVID-19対策を刷新し失われつつある政府への信頼を取り戻そうとする動きであると考えられる
またCOVID-19感染抑制対策に伴い経済は悪化しており、9月の失業率は過去最悪の23%を記録した。その中で国民の多くは行政そのものに不信感を持っており、ヨルダン大学の世論調査では回答者の74%が国が悪い状況に向かいつつあると答えている。経済対策とコロナウイルス対策の両立に成功しない限り、この不信感は解消されないであろう。
(上席研究員 金谷 美紗)
(研究員 井森 彬太)
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