中東かわら版

№88 GCC:新型コロナウイルス対策事情(コロナ禍の現状)

 2020年9月、サウジアラビアの国営サウジ航空(SAUDIA)が限定的ながら国際線の就航再開を発表し、GCC内では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束ムードが醸成されている。一方、新規感染者数が増加中の国もあり、「終息」に至る道筋は一向に見えないのが現状だ。各国コロナ禍の現時点(10月16日)での状況に関する要点を以下の通り整理した。

 

表  GCC加盟国の新規感染者数の推移(2020年3月1日〜10月15日、現地報道をもとに作成)

 

1. サウジアラビア

 7月以降に新規感染者数・死者数の減少が始まり、これに伴って移動制限の緩和も進めた。一方、手綱を緩めることなく同月のメッカ大巡礼では人数制限を行い、また航空会社の国際線定期就航の再開にも慎重な姿勢を維持した。この結果、現在の新規感染者数をGCC内でも低水準と言って良い程度に抑えることに成功し、9月以降に国際線の就航再開を順次進め、また2021年1月に観光査証の発給も再開することが予定されている。もっとも、政府としては11月のG20サミットで各国首脳らを国内観光地に招待し、この様子を広く世界各国に報じたかったところであろうが、同サミットはオンラインで開催することと相成った。

 

2. UAE

 GCC諸国の中で最も早くCOVID-19感染者が報告されたUAEは、もともとGCCの中で低水準の感染拡大を維持し、7月には省庁再編を通じてテレワークに対応したデジタル環境の整備を図るなど、コロナ禍を念頭に置いた政策に注力してきた。10月にドバイで開会が予定されていた万博については延期が決定されたが、これはサウジで同時期開かれるG20などとのタイアップも想定してたため、サウジへの観光客が見込まれない状況では妥当な選択であったとも言える。他方、9月末以降に新規感染者数・死者数が最多を記録し、以降はGCCの中で高水準の感染拡大が続いている。先立つ9月半ばに国交正常化を発表したイスラエルとの間でCOVID-19検査・治療薬の共同開発を進めていると報じられ、これを感染拡大の収束および一部諸国から批判を受けたイスラエルとの外交関係樹立の正当化につなげたいところだ。

 

3. カタル

 当初より新規感染者数・死者数いずれもGCCの中で低水準にあり、とりわけ死者数の少なさを政府はCOVID-19対策の成果としてアピールしてきた。これを背景に、GCCの中でも早期に経済活動や航空便国際線の定期就航の再開を進め、諸外国の要人らとの対面での会談も実施するなど、コロナ禍の収束ムードを牽引してきたと言える。もっともこの背景には、カタルがUAEとともに航空路線網のハブであることを強みとしてきた事情がある。この点、カタルはコロナ禍の移動制限によって薄氷を踏む状態と隣り合わせだったと言え、警戒を維持している。

 

4. クウェイト・オマーン・バハレーン

 オマーンに関しては夏に感染拡大が見られたものの、いずれもGCCの中では低水準を維持し、現在は横ばいが続いている(上表のオマーンの新規感染者数に9月以降高低差が目立つのは、週末に集計を行なっていないことによる)。とはいえ、外国人労働者の賃金未払い問題(クウェイト)、5%のVAT導入(オマーン、2021年4月より)等、経済的な影響は随所に見られる。とりわけ新首長が即位、新皇太子が任命されたばかりのクウェイトでは、COVID-19収束および経済安定化に向けた政策に注目が集まる。

 

評価

 GCCにおけるCOVID-19感染拡大はイランからの帰国者を端緒とし、これを受けてバハレーン等ではイランを批判する声が上がった。しかしその後、COVID-19が世界的な問題となってからはこうしたプロパガンダに拘泥する余力はなく、むしろ3月の石油価格下落と相重なった経済的影響への懸念が中心となった。このため、4月にはサウジが中心となってOPECプラス会合での石油協調減産が合意に至り、また5月半ば以降は各国が経済活動を順次再開する等、経済回復のための策を講じてきた。現在、サウジを除けばCOVID-19感染拡大の状況は概ね横ばい、UAEに関しては増加傾向にあるため(ただしUAEでは回復者数も多く、感染中患者数は減少傾向にある)、GCCのコロナ禍は「収束した」とは必ずしも言えない状況にある。むしろコロナ禍が常態化する中、UAEがイスラエルとの検査・治療薬の共同開発をアピールしているように、政策をCOVID-19対策にどう紐付けるかが各国政府にとってより重要になるだろう。

 

【参考】

中東分析レポート「中東各国における新型コロナウイルス感染症の影響」No.R20-04(2020年6月発行)※会員限定

(研究員 高尾 賢一郎)

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