中東かわら版

№81 イラン:米国が国連制裁再発動を一方的に宣言

 2020年9月19日、米国はイランに対する国連制裁再発動(スナップバック)を一方的に宣言した。ポンペオ国務長官名の同日付声明は、「テロ支援国家」で「反ユダヤ主義」の急先鋒であるイランは中東における最大の脅威だと断じた。米国は本年8月20日に国連安保理に制裁再発動を要請していたが、議長国(当時)のインドネシアは、米国のスナップバック発動要請を先に進める立場にはないとしたため、実際には手続きは進んでいなかった。したがって、国連は制裁再発動に踏み切っておらず、今次動きは米国による一方的な宣言である。

 一方で上記の国連制裁を補うため、21日、トランプ大統領はイランによる(1)核関連活動、(2)弾道ミサイル、及び(3)通常兵器の製造・取引・移送を制限する米国独自の制裁を新たに科す大統領令に署名したと発表した。この中で、(1)核関連活動においては、イラン原子力庁の高官、及び関連団体に対する制裁が発動された。また(2)弾道ミサイルに関して、これに関わる個人、及び液体推進剤弾道ミサイル開発関連企業に対する制裁リストが更新された。そして(3)通常兵器に関し、イラン国防軍需省、イラン国防産業機構(DIO)・所長、及びマドゥロ・ベネズエラ大統領が制裁の対象に指定された。

 こうした動きに対して、19日、国連のグテーレス事務総長は「手続きに不確実な部分がある」として、米国による一方的な宣言に対する行動はとらない考えを示した。また、20日、ロウハーニー大統領は、米国が国連安保理に提出した対イラン武器禁輸解除に関する提案が否決されたことを引き合いに、米国は「最大限の圧力」政策で失敗したばかりでなく「最大限の孤立」に追いやられたと酷評した。

評価

 今次の米国による国連制裁再発動は法的根拠に乏しく、また国連やE3(英、仏、独)を含む主要国もこれを支持していないため、実質的な影響は限定的といってよい。米国は2018年5月にイラン核合意(JCPOA)から単独離脱して以降、一貫して「最大限の圧力」政策を推し進めてきた。この過程で、2018年8月には主要産業分野での取引制限を含む第一段階の制裁が発動された。更に2019年5月には、主要8カ国に対するイラン産原油禁輸措置の免除撤廃が実行されるに至り、既にイラン経済の根幹を揺るがす制裁は発動済みだった。したがって、今次宣言は象徴的なものに過ぎないだろう。

 今次動きで最も注目すべき点は、何故、米国は実現の見通しがない国連制裁再発動を一貫して主張し続けるのかである。建前とは裏腹に、トランプ政権内でも、米国がJCPOAから単独離脱した現状において、国連安保理決議2231に留まっていると考える者はいないはずである。それでも反イラン姿勢を示し続ける理由には、米国がイランは地域の不安定要因だと考えていることの他に2つの理由が考えられる。第一に、本年11月3日に米国大統領選挙を迎える中、トランプ大統領は「再選ファースト」を念頭に外交を展開している。トランプ大統領が国内のユダヤ系米国人を含む保守層から支持を得てきた背景には、親イスラエル・反イランを掲げ、対イラン強硬政策を打ち出し続けてきたことが大きい。上述の米国務省声明にも「反ユダヤ主義」の文言が盛り込まれていることは、トランプ大統領が選挙を強く意識している証左である。

 第二に、JCPOAはそもそも不完全な合意だ、との印象を刻むことが目的である可能性がある。JCPOAにはサンセット条項(一定の年月が経過すると失効する条項)が盛り込まれており、トランプ大統領はこれではイランの脅威を削ぐことはできないとして目の敵にしている。米国は国連制裁再発動を強く主張することで、JCPOA自体を破綻に追い込みたいと見られる。この意味では、本来は手段であるべき国連制裁再発動の主張自体が目的化しており、今後もトランプ政権が任期満了まで、内実を伴わないままに反イラン政策を主張し続ける事態が想定される。

 もっとも、米国による国連制裁再発動の一方的な宣言が、イランに全く実害を与えていないわけではない点にも留意が要るだろう。今次動きを受けて、イランの外国為替市場は先行きへの警戒感から、本年9月19日に通貨リアル(実勢レート)が1米ドル当たり27万3000リアルにまで暴落した。2018年4月にはおよそ5万リアルであったことに鑑みれば、輸入産品の市場価格は5倍以上値上がりしている計算となる。このような物価高騰が一般市民を困窮させていることは想像に難くない。経済制裁にCOVID-19による影響も相俟って、現在、イランのマクロ経済は「窒息」寸前とも呼べる状況にある。今後もこうした状況が続くようであれば、イラン国内での抗議デモ発生を含めた社会不安の深刻化が懸念される。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン:国連安保理が武器禁輸延長決議案を否決」No.59(2020年8月17日)

 

 <中東トピックス>【会員限定】

・「イラン:国連安保理が米国のスナップバック発動要請を却下」T20-05(2020年8月号)

 

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「イラン核合意を巡るイランの強硬姿勢 ~国内的要因を中心とした背景と諸相~」R19-04

・「JCPOAのゆくえ#2:破綻過程の進展とイランの現況」R19-10

(研究員 青木 健太)

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