中東かわら版

№80 モロッコ:新型コロナウイルス対策事情(医療従事者による抗議デモ)

 モロッコでは、2020年6月25日にCOVID-19感染拡大抑制策の段階的緩和が始まったものの、7月以降、1日当たりの新規感染者数が増加傾向にある。これを受け、政府はカサブランカなどで夜間外出禁止令を発令し、衛生緊急事態宣言を10月10日まで延長するなど、感染拡大の抑え込みを図っている。しかし、歯止めがかからず、死者数も7月1日の228人から9月15日には1648人まで増加し、増え続ける患者に医療機関が対応できていない現状がみられる。 

図 COVID-19累計感染者数と1日当たりの新規感染者数の推移(6/1~9/15)

   (出所)保健省の発表をもとに筆者作成

 こうした感染拡大の状況下、全国保健連盟(FNS)を中心とした医療従事者による抗議デモが各地で発生している。彼らは、医療現場で不足する人員及び医療器材の拡充や賃金面の待遇改善、職務中のCOVID-19感染に対する労災認定などを要求している。さらに、3月から絶え間なく続く患者対応で疲弊する最中、8月3日に保健省が発表した休暇取得の中断決定(休暇中の者は48時間以内に職場復帰)が、医療従事者の不満をより一段と高める要因となった。

 

評価

 モロッコでの感染拡大の要因として、他国と同様、経済活動の全面再開が挙げられる。COVID-19感染拡大抑制策に伴い経済は著しく悪化し、2020年第2四半期の失業率は2001年以降最も高い12.3%(前年同時期:8.2%)を記録した。こうした経済事情を踏まえると、経済再建を図る上で感染者増を招くことは仕方がないことであった。

 その一方、モロッコが抱える脆弱な医療体制問題が感染拡大の抑制を困難にし、更には医療従事者の負担を増大させている。特に人員不足に関して、人口1000人当たりの医師数は2017年に1人未満の0.7人であり(出所:世銀)、チュニジア(1.3人)やヨルダン(2.3人)と比較しても少ない。保健省も昨年11月に人員不足を認識し、1万2000人の医師と5万人の看護師及び医療技術者を追加配置する必要があるとの見解を示していたが、現在まで完全に実行されていない。こうした人員不足は地方の農村地域でより深刻化している。現在、政府は人員や病床の不足を補うため、軍医療関係者を投入したり、野営病院を設営したりするものの、医療従事者の要求を十分に満たしたとは言えない。今後、不満を募らせる医療従事者が現在の座り込みデモからスト活動へと抗議手法を変更した場合、医療機関が麻痺することで、感染状況が更に悪化する恐れがある。

 

 【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東トピックス>【会員限定】

・「モロッコ:新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済悪化」T20-01(2020年4月号)

・「モロッコ:新型コロナウイルス感染症の感染拡大と経済再建策」T20-04(2020年7月号)

 

(研究員 高橋 雅英)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP