中東かわら版

№76 バハレーン:イスラエルとの国交正常化合意を発表

 2020年9月11日、米国のトランプ大統領は、バハレーンのハマド国王およびイスラエルのネタニヤフ首相との電話会談を経て、自国の仲介によりバハレーンとイスラエルが国交正常化に合意したことを発表した。同大統領はこれを、先月13日のUAE・イスラエルの国交正常化合意(「アブラハム合意」)に続き、「歴史的成果」だとアピールした。バハレーンのザイヤーニー外相は、翌12日にイスラエルのアシュケナジ外相と電話会談し、国交正常化を通じて地域の安定に向けた協力を両国が進める旨を確認した。

 本合意発表を受けて、1979年にアラブ諸国の中で初めてイスラエルと国交を結んだエジプトのシーシー大統領は、「中東地域の安定と平和のための重要なステップ」としてこれを歓迎した。また今月15日に米国でアブラハム合意の調印式を控えているUAEの外務省も、同様の趣旨でバハレーン・イスラエルの国交正常化を讃えた。

 一方、アブラハム合意の時と同様、パレスチナ諸派、イラン、ならびにイエメンのアンサールッラー(通称フーシー派)はバハレーンを批判する声明を発した。またバハレーン国内では、かつての最大野党であり、2016年に政府によって解散を命じられたシーア派政治団体ウィファークが、「イスラエルとの国交正常化、イスラエルの存在、いずれも違法である」と本合意発表を非難した。この他、複数の市民社会団体がバハレーン政府の決定を「国民の意に反するもの」などと非難しているとも報じられる。

 

評価

 バハレーンは、アラブ諸国の中で先月のアブラハム合意への支持をいち早く発表した国の1つであり、UAEに続いてイスラエルと国交を正常化するとも目されていた。同月末から今月頭にかけて米国のポンペオ国務長官とクシュナー大統領上級顧問がハマド国王を訪問し、UAEに追随してイスラエルと国交正常化を進めるよう要請したとされるが、本合意によってこれが叶ったことになる。米国としては、現政権の成果として、中東和平および中東地域の安全保障環境における自国のプレゼンスを誇示する材料を手に入れたとの思いが強いだろう。

 一方でバハレーンは、8月19日にサウジが現状でのイスラエルとの国交正常化を否定して以降、サウジに倣って同様の姿勢を表明してきた。今次合意に際しても、ハマド国王はイスラエルとパレスチナの二国家解決の実現に向けて引き続き努力すると強調し、トランプ大統領とネタニヤフ首相に対して要望を提示する形を示した。この点、バハレーンの対応はUAEとサウジの双方の現況を考慮したものとも言える(単なる折衷案ではなく、UAEのアブラハム合意の意義をアピールしつつ、これに追随しないサウジの矜持を引き立たせるもの)。

 もっともUAEには、アブラハム合意をパレスチナ西岸併合を阻止し、COVID-19感染拡大防止に向けた技術協力を進めるための利他的な外交努力と位置づけることで、自国の姿勢を正当化する用意周到な面が見られる。これと比べて、バハレーンにはイスラエルとの国交正常化を正当化する具体的な材料を示しておらず、ともすれば性急な決定にも映る。国内勢力からの非難の声が見られるのはこの証拠と言えよう。バハレーン政府は今後、イスラエルとの関係構築の意義を押し広げて本合意の正当化を図りつつ、国内各勢力の動向を注視する必要にせまられる。

 

【参考情報】

関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

イスラエル・UAE:国交正常化の背景・思惑・影響」2020年度No.58(8月14日)

サウジアラビア:イスラエル・UAEの国交正常化に初めて言及」2020年度No.63(8月20日)

サウジアラビア:イスラエルとの国交正常化を改めて否定」2020年度No.71(9月3日)

 <中東分析レポート>※会員限定

中東各国におけるイスラエル・UAE国交正常化への反応」No.R20-08(8月26日)

(研究員 高尾 賢一郎)

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