№74 チュニジア:マシーシー内閣の成立
2020年9月2日、ヒシャーム・マシーシー氏(無所属)を首相とする内閣が、議会での信任投票で過半数の賛成票を得て、成立した。賛成票を投じたのは、議会第1党のナフダ党やチュニジアの心党などであった。その一方、民主連合(民主潮流党及び人民運動)や自由憲法党、尊厳連合は反対票を入れた。議会での投票結果は以下のとおりである。
表1 マシーシー内閣への信任投票結果
投票数 |
201(全217議員) |
賛成票 |
134 |
反対票 |
67 |
(出所)国営通信「TAP」9月2日
マシーシー内閣では、閣僚25人すべてが無所属の実務者である。閣僚リストは以下のとおりである。
表2 マシーシー内閣の閣僚リスト
首相 |
ヒシャーム・マシーシー |
前内相 |
国防相 |
イブラーヒーム・バルタージー |
カルタゴ大学教授 元憲法評議会委員(2007~2011) |
内相 |
タウフィーク・シャルフッディーン |
破毀裁判所付き弁護士 現大統領のスース県選挙対策調整員 |
法相 |
ムハンマド・ブーサッタ |
元ビゼルト控訴裁判所長 |
外務・移民・在外チュニジア人相 |
ウスマーン・ジャランディー |
現大統領顧問(外交担当) 元韓国大使、元ヨルダン大使 |
宗教問題相 |
アフマド・アズーム |
2017/2~現職 |
経済・財務・投資相 |
アリー・クーリー |
元U.B.A.F銀行東京支店・副支店長 アラブ銀行(ABC)チュニス支店長 |
通信技術相 |
ムハンマド・ファーディル・カリーム |
元チュニジア・テレコム副社長 |
運輸・物流相 |
ムアズ・シャクシューク |
元チュニジア・ポスト会長 |
設備・住宅・インフラ相 |
カマール・ドゥーフ |
元チュニジア高速道路会社副社長 設備・住宅・インフラ省領土整備局長 |
国有資産・不動産問題相 |
ライラ・ジファール |
元ナブール控訴裁判所長 |
農業・水資源・水産相 |
アーキサ・バフリー |
前農業相付き水資源担当副大臣 |
産業・エネルギー・鉱業相 |
サルーア・サギール |
チュニジア精製産業会社(STIR)社長 |
環境・地方問題相 |
ムスタファー・ラルーウィー |
元環境省農村環境保護局長 |
貿易・輸出相 |
ムハンマド・ブーサイード |
元産業・商業省貿易促進局長 |
観光相 |
ハビーブ・アマール |
元国家観光局(ONTT)事務局長(2010~2014) |
教育相 |
ファトフィー・サラーウティー |
チュニス・エル・マナール大学長 |
高等教育・科学研究相 |
アルファ・ベン・ウーダ |
元カルタゴ大学長
|
社会問題相 |
ムハンマド・トラベルシー |
元社会問題相(2016/8~2020/2) |
女性・家族・高齢者問題相 |
イーマーン・ハウィーマル |
元社会問題省移住国際協力局長 国際労働機関プログラム調整官 |
青年・スポーツ相 |
カマール・ディキーシュ |
チュニジアオリンピック委員会理事 |
保健相 |
ファウジー・メフディー |
チュニス大学薬学部准教授 |
文化相 |
ワリード・ジーディー |
マヌーバ大学講師 |
首相付き大臣(議会関係担当) |
アリー・ハフシー |
前チュニジア呼びかけ党党首 2020/2~現職 |
首相付き大臣(憲法機関担当) |
スラヤー・ジャリービー |
元チュニス控訴裁判所長 チュニス司法高等学院教育局長 |
首相付き大臣(公務員・ガバナンス担当) |
ハスナー・ベン・サリーマーン |
独立最高選挙機構(ISIE)理事 |
評価
マシーシー首相は7月末の首相任命以降、新内閣に関して、各政党から閣僚を選定する連立内閣ではなく、実務者内閣を目指していた。一方、マシーシー首相の方針は閣僚ポストを求める各政党から反発を招いたことから、新内閣が議会で信任されるか否かが注目であった。
今般、新内閣が成立した要因として、議会第1党のナフダ党(54議席)が支持したことが挙げられる。同党も当初、閣僚ポストに固執し、実務者内閣の形成に反対であった。しかし、同党が投票直前で賛成に転じた背景には、新内閣が議会で信任を得られず、議会が解散する事態となった場合、政治混乱を招いたナフダ党への批判が強まる懸念があったからだろう。
マシーシー内閣の最優先課題は、経済・財政状況の改善である。新型コロナウイルス感染症の抑制策を受けて経済は悪化し、経済再建策の財源は諸外国からの借入に頼らざるを得ない。今回、経済相に登用されたクウリー氏は、経済や金融分野で豊富な経験と知識を持つため、政府が彼の提言を元に新たな経済再建策を講じていくと予想される。他方、マシーシー内閣は議会での法案成立や政策実施の面でナフダ党との協力は不可欠であることから、今後のナフダ党の意向次第では、クウリー大臣主導の経済政策が頓挫する恐れもある。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「チュニジア:ファフファーフ首相が辞任」No.45(2020年7月17日)
・「チュニジア:マシーシー内相が新首相に」No.51(2020年7月28日)
(研究員 高橋 雅英)
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