中東かわら版

№73 エジプト:ムスリム同胞団のイッザト副最高指導者逮捕

 2020年8月28日、エジプトの内務省はムスリム同胞団の副最高指導者、マフムード・イッザト(76歳)を逮捕したと発表した。イッザトは、ムハンマド・バディーウ最高指導者の逮捕後、実質的な最高指導者の役割を果たしているとみなされてきた。また、ガザ地区かその他国外に逃亡したと報じられていたが、内務省はイッザトをニュー・カイロ市のタガンムウ・ハーミス地区で逮捕したと発表しており、エジプト国内に潜伏していたことが明らかになった。同省は、イッザトはムスリム同胞団の軍事部門を設立し、「2013年6月30日革命」(ムルシー大統領の解任)後、ヒシャーム・バラカート検事総長爆殺事件(2015年)や軍・警察将校殺害などの「テロ作戦」を監督、ムスリム同胞団の資金管理を統括し海外同胞団メンバーを通じてエジプト政府を批判する活動を行っていたと主張している。イッザトは既に複数の事件で死刑・終身刑判決を受けている。

 イッザトの逮捕を受け、ムスリム同胞団は公式ホームページで声明を発表し、正規の法手続きに基づかない拘束、高齢による持病がある身体に拷問をした場合は意図的な殺人とみなし、副指導者の命の責任は完全にエジプト軍事体制にある、と警告した。

 

評価

 2013年7月のクーデタ以降、軍・内務省によるムスリム同胞団メンバーの逮捕・起訴は数千人規模に上ると言われ、徹底的な弾圧によって同胞団はエジプト国内で活動不能の状態にある。公判中のバディーウ最高指導者(終身刑、死刑宣告)に加え、2019年6月にはムルシー元大統領が死亡し、8月13日には指導局メンバーであったイサーム・イルヤーンが獄中死、そして今回、副最高指導者のイッザトが逮捕された。同胞団指導部中枢を担ってきた古参幹部らの逮捕と死亡によって、同胞団の活動麻痺状態は否めない。

 同胞団はイッザト逮捕後に上記の声明を出したが、エジプト政府・軍・内務省に対して組織的報復を行える能力はないため、今後、声明を通じた批判以上の行動はないと思われる。末端の同胞団メンバーは治安当局による弾圧を恐れ、同胞団メンバーの身分を隠して生活していると言われている。同胞団を全てのテロリズムの根源とみなすシーシー政権が続く限り、同胞団がエジプトで活動を行えない状況は続くだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「エジプト:ムルシー元大統領の死去」2019年No.47(6月18日)

(上席研究員 金谷 美紗)

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