中東かわら版

№72 イエメン:UAE・イスラエルの国交正常化合意の余波

 2020年8月13日に発表されたUAE・イスラエルの国交正常化合意を受け、イエメンのアンサールッラー(通称フーシー派)は政治局、教員組合、司法評議会などを通して同合意を非難する声明を積極的に発信し、アラブ諸国に対してはアラブの大義を取り戻し、対イスラエルで足並みを揃えることを呼びかけた。そして31日には、指導者であるアブドゥルマリク・バドルッディーン・フーシー氏が、イマーム・フセイン追悼祭(アーシューラー)に際して行った演説で、国交正常化を含めたイスラエルとのあらゆる関係構築は忠義と法に反すると批判した。一方、本合意を受けて、アンサールッラーが支配するフダイダ県では学生を中心に抗議運動が散発した。

 

評価

 アンサールッラーにとって、UAEはサウジとともにイエメン国内の覇権争いの相手となる。また公に自組織を支援する勢力が国外に存在しないアンサールッラーは、これまでしばしばパレスチナ支持に言及し、これをアラブ・イスラーム諸国の間での自組織のプレゼンスや正当性を訴えるための数少ないアジェンダとしてきた。この点、本合意に対するアンサールッラーの非難は自然な流れであり、また域内情勢に影響を与えうる可能性は低い。むしろアンサールッラーにとって目下の懸念は、支配地域でデモが継続することで統治が不安定化することであろう。本合意を積極的に非難する要因はこうした足元の情勢にありそうだ。

 このような状況下、南部移行評議会(STC)は8月25日に暫定政権との協議への参加を見送ると発表した。STCは7月29日、4月に発した自治宣言を撤回し、暫定政権と権力分有を図るための協議を再開すると発表した。これについてSTC側は詳細を述べていないが、権力分有に際して暫定政権から有利な提案を引き出したい立場を考えれば、上述したアンサールッラーの状況に乗じて暫定政権がSTCとの協議で強気な姿勢に出る事態をけん制した可能性もある。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

イエメン:南部移行評議会(STC)が自治宣言の撤回」2020年度No.53(7月30日)

(研究員 高尾 賢一郎)

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