中東かわら版

№67 イラン:グロッシIAEA事務局長によるテヘラン訪問の成果と課題#2

 2020年8月26日、イランは国際原子力機関(IAEA)と共同声明を発出し、イランがIAEAによる国内2拠点への査察を受け入れると発表した。共同声明の概要は以下の通り。

 

  • IAEAとイランは、更なる相互協力を進めることに合意した。また、両者は、2016年1月16日に条件付で適用された、包括的保障措置協定と追加議定書の完全履行に向けた信頼醸成に努める。
  • 緊密な協議の末、イランとIAEAは、IAEAによって指摘された検証活動を実行する上での問題の解決に合意した。したがって、イランはIAEAによって指定された2拠点への査察受け入れを自発的に認め、IAEAによる検証活動を促進する。査察・検証の実施日も合意された。
  • 2015年12月15日にIAEA理事会で採択された決議GOV/2015/72に則り、IAEAとイランは、今次の検証活動は包括的保障措置協定と追加議定書に基づいて行うことを確認する。
  • 現時点で、IAEAが持つ情報に基づけば、IAEAはイランに対する追加の質問事項、及び、他拠点への査察受け入れの要望を有さない。
  • 両者は、検証活動の実施には、IAEAの独立性、公平性、プロフェッショナリズムが不可欠と認識する。IAEAは、イランが有する安全保障上の懸念に配慮し、IAEAの機密保全の規則に従ってこれを取り扱う。

 

 26日、グロッシIAEA事務局長はロウハーニー大統領へも表敬した。同会談で、ロウハーニー大統領は、イラン核合意(JCPOA)は国際社会にとって重要な合意であると述べ、グロッシ事務局長にその技術的な重要性を幅広く説明するよう求めた。

評価

 今次共同声明の通り、イランが以前から核開発活動を行っていた疑惑のある国内2拠点へのIAEAによる査察受け入れを認めたことで、イランとIAEAの間で高まっていた緊張はひとまずは緩和の方向に向かうことになった。イランはこれまでIAEAが政治的に中立ではない、との強い疑念を有してきた(詳しくは「イラン:グロッシIAEA事務局長によるテヘラン訪問の成果と課題」『中東かわら版』No.66参照)。しかし、グロッシ事務局長がテヘランを訪問し、サーレヒー原子力庁長官、ザリーフ外相、及び、ロウハーニー大統領との対話を重ね、中立性と公平性を保つ固い意志をIAEA側が示したことで、イラン側からの譲歩が引き出された。また査察を2拠点に絞り、IAEA側から追加の査察受け入れ要求をしないとの文言が記載されたことも大きい。とはいえ、査察先で疑わしい形跡が見つかれば、一度静まったイラン・IAEA間の争いが再燃する可能性もあり、予断を許さない状況は続く。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン:IAEA非難決議の採択と今後の見通し」2020年度No.35

・「イラン:ナタンズ核関連施設での「事故」の発生とその余波」2020年度No.41

・「イラン:グロッシIAEA事務局長によるテヘラン訪問の成果と課題」2020年度No.66

 

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「イラン核合意を巡るイランの強硬姿勢 ~国内的要因を中心とした背景と諸相~」R19-04

・「JCPOAのゆくえ#2:破綻過程の進展とイランの現況」R19-10

(研究員 青木 健太)

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