中東かわら版

№68 アルジェリア:改憲に係る国民投票が11月1日に実施

 2020年8月24日、タブーン大統領は憲法改正の是非を問う国民投票を11月1日に実施する旨を発表した。憲法改正は昨年12月の大統領選挙時の公約であり、今年1月発足の専門家委員会が草案を作成し、5月に同草案が公表された。その後、専門家委員会が有識者や政党、労組、市民団体などと改憲案を協議し、7月末時点で提案された草案への修正点は約2500件にのぼった。

 一方、2019年2月に開始した反政府デモの活動家や一部の野党は、政府主導の改憲議論を否定している。また、反政府デモは3月に新型コロナウイルス感染抑制策により一時中断したが、6月19日よりカビール地方(ティズィウズーなど)や東部のコンスタンティーヌで再開した。

評価

 今般タブーン政権が改憲案を国民投票にかける背景として、過去3回(2002年、2008年、2016年)の改憲では、ブーテフリカ政権(当時)は両院合同会議での採決だけで成立させ、民意を問わなかった経緯がある。そのため、タブーン政権は国民投票を通じて憲法改正を実現することで、反政府勢力が異議を訴える政府としての正統性を獲得する狙いがあると考えられる。

 また、国民投票日の11月1日は、アルジェリアが1954年に対仏解放闘争を開始した革命記念日にあたる。タブーン政権はこうした象徴的な日を投票日に設定することで、新型コロナウイルス感染が拡大する国難のなかで国民間の団結意識を高め、政府への協力を得たい思惑もあるだろう。

 一方、反政府勢力がタブーン政権と歩み寄る可能性は低いと思われる。彼らはブーテフリカ旧政権関係者の全員に退陣を要求していることから、旧政権の首相経験者であるタブーン大統領の下での政治改革を認めない姿勢である。こうした状況下、タブーン政権はデモを再開させた反政府勢力への取り締まりを強化し、活動家の逮捕や彼らに対する有罪判決が相次いでいる。

 今後、国民投票においてはタブーン政権がどの程度の賛成票を得られるか、が注目される。国民投票では賛成票が投票総数の過半数を超えた場合に承認となる。政府と反政府勢力間の関係改善の見通しが立たないことから、反政府勢力は2019年大統領選挙と同様、投票をボイコットすると予想され、その場合に彼らが持つ票は反対票にもならない。タブーン大統領の大統領選挙時の得票率(約58%)に鑑みると、国民投票は承認される可能性が高いと考えられる。他方、国民投票の県別投票結果を通じて、タブーン政権の支持基盤の傾向も把握でき、同大統領が昨年選挙で高得票率を記録した西部地域で、住民の支持を維持できているか否かが注視される。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。 

<中東かわら版>

・「アルジェリア:憲法改正草案の発表」No.18(2020年5月13日)

 

(研究員 高橋 雅英)

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