中東かわら版

№65 リビア:国民合意政府が停戦発表

 2020年8月21日、トリポリ拠点の国民合意政府(GNA)は停戦を発表し、東部勢力のサーリフ代表議会(HOR)議長も軍事作戦の停止を各部隊に要請した。今回の停戦発表に関して、GNAのバーシャーガー内相は『ブルームバーグ』のインタビューで、アメリカやトルコ、エジプト、カタルの支援がなければ実現しなかったと述べた。主な取り決めは、以下の通りである。 

  •  シルト・ジュフラ間の地域を非武装地帯に設定すること。
  •  外国の軍隊と傭兵がリビアから撤退すること。
  • 石油の生産及び輸出を再開すること。
  • 石油収入は、ベルリン会議(2020年1月)の結果に従って包括的な政治的調整が実現するまで、リビア外国銀行の国営石油会社の特別口座に預けられること。
  • 2021年3月に大統領選挙と議会選挙を実施すること。

  諸外国の反応として、エジプトやGCC、国連などは今回の停戦発表を歓迎する意向を示した。一方、ハフタル率いるリビア国民軍(LNA)のマスマーリー報道官は23日、GNAの停戦発表は人々の関心を引くためのメディア戦略であると批判し、サッラージュGNA首相が停戦を望んでいるならば、シルト周辺の部隊を撤収させるべきだと主張した。

 

評価

 トルコが今年1月にGNAに軍事支援を開始して以降、両陣営間の停戦発表は初となる。GNAは5月にLNAの重要拠点のワティーヤ空軍基地を制圧し、同部隊をトリポリ周辺から後退させるなど、戦局で優勢な立場である。そして、GNAは石油輸出港が集中する石油三日月地帯の入り口に位置するシルトの奪還に動いていたところであった。

 今般GNAによる停戦発表の背景には、GNAが東部の石油輸出封鎖を早期に解除したい動機があると考えられる。LNAや石油施設警備隊(PFG)はGNAへの圧力を強めるため、今年1月より東部の石油施設を封鎖したことで、石油三日月地帯からの輸出が停止した。国営石油会社によると、8月15日までの損失額は約84億ドルに達した。長期の内戦で経済が疲弊する中、重要な外貨獲得源の石油収入を失ったことで、財政状況は悪化の一途を辿っている。こうした状況下、市民生活に直結する問題(慢性的な停電や断水、ゴミ収集の遅れ、現金不足等)や、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に具体的な対応策を打ち出せていないことで、GNAに対する国民の不満が一段と高まり始めた。そのため、GNAは財政問題を解決し、国民の社会経済的な不満に対応できなければ、国民からの支持を大きく低下させる事態に直面するだろう。

 一方、東部勢力やエジプト、UAEにとってもGNAの停戦発表は重要な進展である。それは、仮にGNAがシルトに進攻した場合、GNAやその支援国のトルコ及びカタルを停戦違反として批判する口実を得られたからである。

 今後、ハフタルが停戦発表の取り決めの実行に協力するかどうか、が注目される。現時点で、ハフタル自身は停戦発表に関する明確な立場を示していない。だが、GNA側はトルコが敵視するハフタルを排除した形で停戦プロセスを進めると予想されるため、ハフタルとGNAが協力する可能性は低いと考えられる。その場合、石油輸出の再開への道筋が閉ざされることから、GNA側がシルテや石油三日月地帯の奪還を強行する恐れもある。

 

【参考情報】

 *関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「リビア:各国による内戦介入の動き」No.23(2020年5月22日)

・「エジプト:シーシー大統領がリビアへの軍事介入を示唆」No.36(2020年6月23日)

・「エジプト:議会がリビアへの軍事介入を承認」No.47(2020年7月21日)

 

(研究員 高橋 雅英)

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