中東かわら版

№63 サウジアラビア:イスラエル・UAEの国交正常化に初めて言及

 2020年8月19日、ファイサル・ビン・ファルハーン外相は、サウジがUAEに追従してイスラエルと国交正常化を進める予定はないこと、政府の基本的立場は2002年にサウジが提案した「包括的和平案」(≒イスラエルの占領地撤退を条件としたイスラエルとの関係見直し)だと発言した。また同外相は、イスラエルの西岸併合を引き留めたことは評価できるとした上で、楽観視はできないとの意見を述べた。13日にイスラエル・UAEの国交正常化合意が発表されて以降、サウジのハイレベルがこの問題に言及するのは初めてとなる。

 

評価

 イスラエル・UAEの国交正常化については、GCCではバハレーンが早々にUAEを支持・称賛する声明を出し、続いてオマーンが称賛ほどではないものの肯定的な評価を述べた。これに対してGCCの中軸国であるサウジは一週間、一切言及をしなかった。この間、イスラエルがサウジをはじめとしたUAE以外のアラブ諸国と積極的な関係構築を進める予定であること、また米国もこれを望んでおり、イスラエルとともに「イラン包囲網」の強化を目論んでいるといった見解が、特に海外メディアで頻繁に見られた。

 確かに、本合意がUAEにもたらすメリットとされるもの、すなわち①イスラエルとの経済協力、②「イラン包囲網」の強化、③中東和平への貢献というアピールは、サウジにとっても国益にかなったものと言える。しかしサウジにはイスラーム・アラブ諸国の盟主を自認する立場上、UAEほど実利主義に寄ることには躊躇われるという、体裁面の問題がある。

 加えて、仮にサウジがイスラエルと国交正常化を果たし、パレスチナの援助国との立場を失えば、トルコやイラン等の競合国、またはカタルがサウジに取って代わろうとする可能性が高い。サウジとしては、本腰を入れたパレスチナ支援(イスラエルとの対立)はできないが、パレスチナの最たる援助国との立場を失う事態も避けたいというわけだ。

 また、この点はUAEも同様であろうが、「イラン包囲網」に対するイスラエル・米国との温度差もある。サウジやUAEとしては、イランが周辺国で影響力を行使する余力を持たないことが肝要であって、同国が政治・経済・社会的に停滞することを望むわけではない。この点、イスラエル・米国の強硬な「イラン包囲網」案への安易な参加は躊躇われる。以上を勘案すれば、サウジが早急にイスラエルとの国交正常化に向かわないのは自然である。

 ただし、だからといってサウジとUAEの協力関係に何らかの影響が出るとは考えにくい。むしろサウジとしては、リスクも伴うイスラエルとの関係構築を果たしたUAEが、イスラエルとGCCとの経済協力の窓口になり、当事国となることなく上記のメリット①を得ることが期待できよう。

(研究員 高尾 賢一郎)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP