中東かわら版

№50 サウジアラビア:ハッジと犠牲祭への対応

 イスラム諸国は概ね2020年7月28(夜)~30日にメッカ大巡礼(ハッジ)を、続いて7月30日~8月3日に犠牲祭(※)を迎える。例年であれば上記期間、200~300万人の巡礼者がサウジにある聖地メッカを訪問するが、今期ハッジはCOVID-19の感染拡大を受けて、巡礼者がサウジ国内在住の数千人に限られる(内訳は外国人70%、サウジ人30%とも言われる)。加えて、犠牲祭に伴う礼拝や供儀等の規模も縮小される予定だ。

※犠牲祭(イード・アドハー)は、イブラーヒーム(アブラハム)が息子イスマーイール(イシュマエル)を神に捧げようとしたことにちなんだもの。例年、イスラーム暦12月10~14日に行われる。

 

評価

 サウジにおいてハッジと犠牲祭は、例年なら大規模なインバウンド消費の機会となる。ハッジに関して、2019年のハッジ人数は248万9406人(海外からの訪問者は185万5027人)で、期間と人数では明治神宮等の主要な神社の三が日の参拝、あるいは青森ねぶた祭に相当する。犠牲祭は概ね4連休であるため、やはり人々の移動や買い物が盛んになる。こうしたことから、今期のハッジと犠牲祭に関する規制は、経済的な影響を免れないと言えよう。さらに言えば、犠牲祭では羊を屠殺してこれを近隣の人々に供食する慣例もある。サウジはこれにあたり大量の羊をスーダン等のアフリカ諸国から輸入するが、祝祭ムードの抑制は羊の需要低下という面でアフリカ諸国の経済にも影響するだろう。

 ただし、ハッジと犠牲祭に様々な規制を課したことで、イスラム諸国の間でのサウジの評価が下がることはないだろう。COVID-19は世界共通の課題であり、感染拡大の現状に鑑みれば例年通りのハッジ・犠牲祭の実施は現実的ではない。むしろハッジ・犠牲祭によって感染拡大に拍車がかかれば、サウジ政府の失政として後世に語り継がれるだろう。実際のところ、ハッジ・犠牲祭に対するサウジ政府の対応は、海外から概ね支持されている様子だ。

 

【参考情報】

『中東分析レポート』「コロナ禍に直面するメッカ大巡礼(ハッジ)」No.R20-07、2020年7月15日(会員限定) 

(研究員 高尾 賢一郎)

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