中東かわら版

№48 イラン:ハーメネイー最高指導者がイラクのカージミー首相と会談

 2020年7月21日、ハーメネイー最高指導者はテヘランを訪問中のイラクのカージミー首相と会談した。当初、カージミー首相はリヤドを訪問してからテヘランに来訪する予定だったが、サウジのサルマーン国王が急遽入院したことを受けて同国訪問をキャンセルした。結果として、本年5月に就任したカージミー首相にとって、今次イラン訪問が初の外遊となった。

 同会談におけるハーメネイー最高指導者による発言の概要は以下の通りである。

 

  • イラン・イラク関係は、真の意味において共通の歴史、宗教、文化、慣習と伝統に基づく良好なものである。
  • イランは、イラクの内政に干渉する意思は全く有しておらず、将来もそのような意思を持つことはない。イランは、イラクの独立、主権、領土、統一を尊重する。
  • 米国のイラクに対する対応は、イランのそれとは正反対である。何故なら、米国は敵国にほかならず、広く国民に支持されるイラクの独立や力に反対しているからである。地域の不安定要因である米国の撤退を、イラクが推し進めることを期待する。
  • イランは、米国がソレイマーニー革命防衛隊ゴドス部隊司令官とモハンデス人民動員副司令官を殺害したことを決して忘れることはなく、米国に必ず一撃を加える。

 

 同日、カージミー首相はロウハーニー大統領とも個別に会談した。会談後の共同記者会見で、ロウハーニー大統領は、イラン・イラク両国は通商関係を年額200億ドル(約2兆1370億円)規模に拡大すると発言した。この他、カージミー首相はシャムハーニー国家最高安全保障評議会書記とも個別会談した。

評価

 イラクにおいてイランが支援するシーア派民兵組織への締め付け強化が報じられる中、今次会談はイランにとって、両国間の対外政策レベルでの協力関係を再確認する点で重要であった。1月8日にイランがイラクのアンバール県にあるアイン・アサド基地を地対地ミサイルで報復攻撃したものの、米国が応酬を踏み止まったことで地域の軍事的緊張は一旦は低減された。しかし、その後、イラン政府高官は、米国を中東から駆逐することでこそ報復は完結すると度々言及しており、米・イラン間の緊張は現在も緩和されていない。今般、ハーメネイー最高指導者が、イラクに米国撤退を促していることから、イラン側としてはイラクからこの点で協力を得たい意向がうかがえる。但し、「米国に必ず一撃を加える」との発言については、米国への不信感を表したものに過ぎないと思われ、これを以て直ちにイランによる軍事的手段を用いた報復を予想するのは早計であろう。

 今次訪問のもう一つの特筆すべき点として、イランがイラクとの通商関係拡大を望んでいることが挙げられる。現在、イランは制裁と新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大の二重苦に喘いでおり、財政が逼迫している。7月16日には南西部フーゼスターン州ベフバハーンで生活困窮を訴える抗議デモが発生するなど、国民生活は厳しい。原油禁輸適用除外措置の撤廃、及び、COVID-19による非石油製品の輸出収入と観光収入の激減により、当面打つ手が見出せない状況にある。イランとしては近隣諸国との通商関係を拡大させることで、活路を見出したいところだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

イラン

・「イラン:ソレイマーニー革命防衛隊ゴドス部隊司令官殺害とその波紋」『中東かわら版』2019年度No.165

イラク

・「イラク:カーズィミー新首相の承認」『中東かわら版』2020年度No.15

 

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「イランの地域における対外政策:継続する「革命の輸出」」R20-06

(研究員 青木 健太)

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