№47 エジプト:議会がリビアへの軍事介入を承認
2020年7月20日、エジプトの議会は非公開審議を開催し、エジプト軍の「構成要素」を戦闘任務で国外に派遣することに関する決議案を全会一致で可決した。エジプトの西方における「犯罪・武装民兵や外国テロ勢力」の行為に対して国家安全保障を確保することが目的とされた。同決議案は、シーシー大統領、マドブーリー首相、アブドルアール国会議長、議員20名によって提出された。これに先立つ16日、エジプトの軍事介入を求めてきたリビア東部の部族指導者がカイロを訪問し、シーシー大統領と会談していた。同会談においてシーシー大統領は、エジプトはリビアの軍事情勢を変えうる軍事能力を有していると述べ、軍事介入の可能性を示唆していた。
評価
シーシー大統領は6月、リビアにおけるトルコの軍事介入を強く非難し、エジプト軍の軍事介入を示唆する演説を行っている。今回の決議は軍事介入の国内法的手続きを整えた作業となる。軍最高司令官である大統領の決定でもって軍の国外派遣が決定されるため、国会決議によって直ちにエジプトの軍事介入が行われるわけではない。しかし、国会決議にまで踏み込んだことは、エジプトがリビア内戦におけるトルコの軍事介入を自国に対する深刻な脅威と認識している証左であると同時に、エジプトが自国の軍事展開能力を示すことでトルコの行動を抑止する狙いがあると考えられる。6月演説よりも強いメッセージをトルコに送ったと言えよう。
エジプトが安全保障上のレッドラインと公言したシルトは、現在、トルコ・カタルが支援する国民合意政府(GNA)軍事勢力とエジプト・UAEなどが支援するリビア国民軍(LNA)の攻防戦が行われている最前線である。この戦闘状況如何で、またはトルコの今後の行動次第で、シーシー大統領が軍事介入を正式に決定する可能性はある。ただし、議会が発表した決議内容にはエジプト軍の「構成要素」を派遣すると記されているのみであり、どのような形態で軍事介入するかは不明である。また、COVID-19対策によって国内経済が疲弊した状況にあることを考えると、大規模な介入は行われないと予想される。
【参考情報】
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(上席研究員 金谷 美紗)
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