中東かわら版

№44 サウジアラビア:ジャナドリヤ祭の延期

 2020年7月14日、文化省は2020年11月に開催予定のジャナドリヤ祭(正式名称:遺産・文化の国民祭典)を、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の状況を考慮し、2021年第1四半期に延期すると同省HP上で発表した。ジャナドリヤ祭は例年2~3月頃、約3週間にわたってリヤド郊外で開かれる文化行事である。期間中、各州や政府機関がパビリオンを設けて地域の伝統や省庁の取り組み等を紹介し、ラクダ・レースやゲスト国による展示も催される(日本は2011年にゲスト国に選ばれた)。例年、国内外から数百万人が来場する大規模な集客イベントとして知られている。

 

評価

 そもそも、例年なら2~3月開催のジャナドリヤ祭が11月開催とされた背景には、サウジが2020年のG20ホスト国であり、11月21~22日に同サミット開催を主催していたことが大きい。サウジ政府としては、サミットで訪れた各国要人をジャナドリヤ祭にも招待することで同祭典を国内外に大々的に報じ、ひいては現在進めている観光政策のプロモートに役立てるとの思惑があったはずだ。さらに同時期、ドバイで万博の開催も予定されており、サウジとUAEは二国共通の観光査証の発給も検討する等、海外からの観光客の誘致でのタイアップを見込んでいた。しかしCOVID-19感染拡大により既にドバイ万博は延期が決定され、また7月下旬から始まるメッカ大巡礼(ハッジ)に関しても、ホスト国であるサウジは海外巡礼者を受け入れないことを決定した。こうした状況を踏まえ、サウジ政府は11月のジャナドリヤ祭の開催は非効率的かつ非現実的と判断したのだろう。

 もっとも、近年のサウジでは国家改革計画「サウジ・ビジョン2030」をスキームとして、様々な文化行事が用意されている。かつてジャナドリヤ祭は、サウジ社会において数少ない貴重な屋外での娯楽イベントとも言われてきたが、最近では音楽コンサートをはじめ、若年層をターゲットにしたイベントが選べる状況だ。また入場料を徴収しないジャナドリヤ祭に対して、これらのイベントには数万円相当の入場料が設定されているものもあり、政府としてはより消費が期待できる面もある。こうした中、遺産・文化を紹介するジャナドリヤ祭への期待は、国民と政府の双方にとって変化しつつあるのかもしれない。

(研究員 高尾 賢一郎)

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