中東かわら版

№42 イラン: 新型コロナウイルス対策事情(規制再強化の動き)

 2020年7月5日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止策として、イラン全国で公共の場でのマスク着用が義務付けられた。前日の7月4日のCOVID-19対策タスクフォース会合で、ロウハーニー大統領は「官公庁からの行政サービスを受けるには、健康指針を遵守し、マスクを着用しなければならない」と述べ、規制の再強化方針を打ち出した。

 また、COVID-19拡大を受けて、7月3日から1週間、ペルシャ湾に面する南部ホルモズガーン州で、都市封鎖を再実施するとヘンマティ州知事が発表した。同州にあるイラン最大の港町バンダル・アッバース、及び、観光地のキーシュやゲシュムを含む7都市で実施中である。

 これに加えて、COVID-19拡大が進んだ赤色地域に分類される全国7州でも、生活必需品販売店や薬局を除く商店の休業、及び、移動制限が再開されることになった。これらが適用されるのは、北東部のホラサーネ・ラザヴィー州、南部のフーゼスターン州とブーシェフル州、西部のコルデスターン州とケルマーンシャー州、北西部の東アゼルバイジャン州と西アゼルバイジャン州である(図1)。

 

図1 都市封鎖が再開された8州

(出所)公開情報をもとに筆者作成

評価

 イランではCOVID-19の拡大が一旦収束したとの判断を受けて、4月11日から社会経済活動を段階的に再開(首都テヘランでは4月18日~)した他、5月4日からモスクでの集団礼拝の段階的な再開を進めてきた。背景には、その時点でのCOVID-19による日別感染者数・死者数が減少傾向を示していたこと、及び、政治・社会的影響力が強い宗教界に配慮せざるを得ない事情があった(『中東かわら版』2020年度No.14参照)。しかし、こうした規制緩和を受けて、感染の再爆発を招いた。

 実際、拡大の推移を見ると、日別感染者数は5月2日に802名まで減少したものの、社会経済活動の再開に歩調を合わせるかのように、5月15日には2102名を超え、それ以降も連日2000名以上の新規感染者を出していることがわかる(図2)。日別死者数を見ても、5月16日に35名まで減少した一方で、6月14日には107名に達し、以降、連日100名以上の死者を出している(図3)。

 

図2 イランにおけるCOVID-19の日別感染者数の推移

(出所)保健省発表をもとに筆者作成。

 

図3 イランにおけるCOVID-19の日別死者数の推移

(出所)保健省発表をもとに筆者作成

 

 こうした状況下、ロウハーニー大統領は、現在イランは「第3段階」にあるとの認識を示しつつ、国民による健康指針の遵守と、社会経済活動の両立を目指している。今回の規制再強化も、こうした経済対策とCOVID-19対策を両立させる考えから理解されるだろう。しかし、このままCOVID-19拡大が続けば規制の継続を余儀なくされ、米国からの制裁によりただでさえ苦しい財政が、国境封鎖に伴う非石油製品の取引、及び、医療観光などの制限による歳入の減少で、さらに悪化する懸念もある。先例となるイランのCOVID-19対策事情は、他の国にとって重要な教訓を示している。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン:新型コロナウイルス感染拡大の背景と影響」『中東かわら版』2019年度No.200

・「イラン:新型コロナウイルス対策事情」『中東かわら版』2020年度No.5

・「イラン:新型コロナウイルス対策事情(モスクでの集団礼拝の再開)」2020年度No.14

 

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「イランにおける新型コロナウイルス感染拡大の諸要因」R20-01

・「中東各国における新型コロナウイルス感染症の影響」R20-04

 

 <イスラーム過激派レポート>【会員限定】

・「コロナ禍のラマダーンと過激派」M20-04

(研究員 青木 健太)

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