中東かわら版

№37 チュニジア:南部で雇用を求めるデモ隊と治安部隊が衝突

 南部タタウィーンでは数カ月前より雇用を求めるデモが続き、6月21日にデモ隊と治安部隊の間で衝突が起きた。衝突のきっかけは、エル・カムールの石油施設に通じる道路を封鎖したデモ隊の一部が逮捕されたことである。デモ隊は、逮捕者の釈放を要求するとともに、政府が2017年の合意(若者の雇用確保や開発投資の実施)を順守できていないと批判を強めている。今回の衝突を受け、政府は重要施設を守るため、タタウィーン市内に軍を展開させ、騒動の鎮静化を図っている。 

 騒動の中、チュニジア労働総同盟(UGTT)はデモ隊の要求に理解を示し、22日には公共機関の閉鎖などのストライキを実施し、デモ隊の要求に応じるよう政府に迫っている。 

 

評価

 タタウィーンでは2017年にも雇用対策を要求する抗議デモが発生した。一連のデモの背景には、チュニジアが抱える地域格差の問題がある。1956年の独立以降、政府は東部沿岸地域を中心に開発を行ったため、内陸部(中西部及び南部)では産業活動が少なく、雇用機会も乏しい。実際、タタウィーン県の失業率28.7%(2019年6月時)は全国平均15.3%を大きく上回るなど、内陸部の住民は常に経済的不満を持つ。

 一方、政府がデモ側の要求を実現させるのは、財政上の理由で困難である。新型コロナウイルス感染症の抑制策に伴い経済状況は悪化し、国民や企業への経済支援策が大きな財政負担となっている。政府は現在、諸外国からの借入額を増加させることで財源の確保に努めている。

 社会不安が高まる状況下、UGTTによるデモ隊支持の動きが注目に値する。UGTTは全国規模で強力な動員力を持ち、デモやストライキを通じて政府の経済政策を牽制している。他方、こうした政府に対するUGTTの圧力は政治混乱をもたらす要因となる。過去には、2013年のナフダ党中心の連立内閣や2019年のシャーヒド内閣は、譲歩を引き出そうと試みるUGTTのデモ対応に追われ、円滑な政権運営ができない状況に陥った。

 今後のデモ展開の行方を左右するのは、現在議論中の2021年予算法である。政府は厳しい財政事情に鑑み、公務員の新規採用停止や給与削減などを検討している。一方、緊縮政策は内陸部のデモ隊やUGTTの反発だけでなく、多くの国民の不満を引き起こすことが予想される。今後、政府が2021年予算法で緊縮政策を強行した場合、デモ隊による資源生産活動への妨害やUGTT主導の大規模ゼネストが発生する恐れもある。

(研究員 高橋 雅英)

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