中東かわら版

№35 イラン:IAEA非難決議の採択と今後の見通し

 2020年6月19日、国際原子力機関(IAEA)理事会は、イランに対して査察受け入れを含むIAEAの監視活動に完全に協力するよう要請する決議を採択した。当該決議は、イスラエルからの報告をもとに、E3(英・独・仏)の主導によって準備が進められたもので、賛成25票、反対2票(ロシア・中国)、棄権7票で採択された。IAEA理事会のイランに対する要請事項は以下の通りである。

 

  • NPT包括的保障措置協定、及び、追加議定書の履行に向けて、イランが完全、且つ、早期に査察受け入れを含めてIAEAに協力すること。また、イラン国内にある全ての核物質が平和的な状態にあることを証明すること。
  • 国内2拠点への査察受け入れの拒否に懸念を示しつつ、イランがIAEAに完全に協力し、如何なる遅滞もなくIAEAの要請に応じること。

 

 これに対して、イラン側は猛烈に反発する姿勢を示している。6月19日、モウサヴィー外務報道官は、IAEA決議を「非建設的で失望させる措置」だと述べ、E3が米国とイスラエルに煽動されて主導したものだと強く非難した。

 また、6月21日、イランの国会議員240名は、今次のIAEA決議は「過剰な要求」であり、E3は米国とイスラエルの罠に嵌っていると非難するとともに、イランはこれまでIAEAの要請に適正に応じてきたと声明を出し反発した。

 他方で、6月21日、イスラエルのネタニヤフ首相は閣議で、「イランは核兵器の保有に向けて、国際社会に対し嘘をつき続けている・・・(中略)・・・本日、IAEAは我々(イスラエル)が言い続けてきたことをようやく理解した」と発言し、IAEA決議の採択を支持した。

評価

 IAEAがイランを非難する決議を採択するのは2012年9月以来で、2013年に成立したロウハーニー政権では初めてのことである。この点で、今次決議の採択は、ロウハーニー大統領が掲げてきた国際協調路線が破綻過程を辿っていることを図らずも明確にしたといえる。今次決議に至るまでにIAEAは、2020年3月3日、及び、同年6月5日に立て続けに報告書(文書番号:GOV/2020/15、及び、GOV/2020/30)を発出し、イランが2002年~2004年に国内2拠点で核物質の使用・貯蔵、及び、核関連活動を行った可能性を指摘し、質問への回答を求めてきた。しかし、イランは査察受け入れを拒否し、IAEAからの要請に回答しなかったため、今般、IAEA理事会が決議を採択するに至った。

 他方で、イラン側は、①情報源、及び、②採択の手続きの2点で、IAEAと異なる主張をしている。上述の通り、イラン側は①情報源をイスラエルと断じ、情報には信憑性がなく、IAEAの決議には根拠がないとの立場を崩していない。また、②採択の手続きは、包括的保障措置協定第69条に基づけば「IAEAの要請に応じ、締約国は不明点への説明を報告書で提出する」とされるにもかかわらず、6月5日の警告からごく短い期間で今次決議が採択されていることをイランは問題視している。総じて、イラン側は、現在の状況を米国とイスラエルによって政治的に作りだされたと捉えている模様である。

 今後、サンセット条項により10月18日に武器禁輸解除が予定される中、イラン側としては現状維持を図ることが自らの利益につながるといえる。このため、IAEA側の要請に条件を付した上で応じるなど、基本的には節度ある行動を模索するものと考えられる。但し、ロウハーニー政権が末期を迎えつつある状況下(2021年5月大統領選挙予定)、イラン核合意そのものに不満を有する保守強硬派の台頭が不安要素となっている(『中東分析レポ―ト』R19-12【会員限定】参照)。このため、今後の事態を過度に楽観視することはできない。国際社会での更なる孤立を避けるため、イラン側には説明責任と透明性を持った真摯な対応が求められている。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン:米国がイランに対する武器禁輸解除を妨害」No.13

・「イラン:ガーリーバーフ国会議長選出とその意味」No.26

・「イラン:武器禁輸解除に向けてロシアの支持を取り付け」No.31

 

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「イラン核合意を巡るイランの強硬姿勢 ~国内的要因を中心とした背景と諸相~」R19-04

・「JCPOAのゆくえ#2:破綻過程の進展とイランの現況」R19-10

・「イラン第11期国会議員選挙の結果とその影響 ――有権者の投票行動に着目して――」R19-12

(研究員 青木 健太)

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