中東かわら版

№31 イラン:武器禁輸解除に向けてロシアの支持を取り付け

 2020年6月16日、ザリーフ外相はロシアのラブロフ外相とモスクワで会談し、本年10月18日に予定されている武器禁輸解除に向けて、ロシアからの支持を取り付けた。

 国連安保理決議第2231号に基づき、イランは核合意(JCPOA)採択の日(2015年10月18日)から5年間が経過すると、武器禁輸措置が解除されることとなっている。しかし、米国は、イランは中東各国に小火器、迫撃砲、ミサイル等を輸出し中東を不安定化させていると糾弾して、断固として解除を妨害する姿勢を示していた(詳しくは『中東かわら版』No.13 参照)。

 6月16日付『IRNA』(国営通信)によると、ラブロフ外相は外相会談後の共同記者会見で、「米国による武器禁輸措置の継続に向けた努力が実行に移される見通しはない」と明言した。また、両外相は会談後、国連憲章をはじめとする国際法の原則を遵守する重要性を確認した「国際法遵守の促進に関する共同宣言」に署名し、米国の動きを牽制した。さらに、ラブロフ外相は、今後もJCPOAを維持することで両国は合意したと発言し、イラン側の立場に寄り添う姿勢を明確にした。

 一方で、ザリーフ外相は、6月15日、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長がイランは国内2拠点への核査察を受け入れていないと懸念を表明したことに対し、イランは透明性を持ってIAEAの要請に対応していると反論し、自国の立場を主張した。その上で同外相は、近年のIAEAは米国やシオニスト体制(イスラエル)の圧力によって独立性を失っており、JCPOAの破綻に加担しているとの見解を示した。

 

評価

 米国が武器禁輸解除を妨害する中、ロシアから米国の妨害行為を認めないとの言質を得たことは、イランとして大きな意味を持っている。ロシアはJCPOA当事国の一つであると同時に、常任理事国として国連安保理において拒否権を有する。米国が2018年5月にJCPOAから単独離脱したことは周知の事実であるとはいえ、米国が国際場裏で大々的に反イラン・キャンペーンを展開する事態は、イランにとって望ましいものでない。特に、JCPOA締結によって経済制裁が解除されるとの公約の下に有権者の支持を集め、当選を果たしたロウハーニー政権にとって、武器禁輸解除の実現はJCPOA維持の意義を国内向けにアピールする材料ともなる。このため、今般、イランがロシアから、①JCPOAの維持、及び、②武器禁輸解除、の2点で支持を取り付けたことは、今後のイランの内政・外交を見通した場合に成果だと言えるだろう。

 一方で、イランが査察を拒否しているとの最近のIAEAによる主張が、イラン側から否定されている点は特筆に値する。本年1月5日にウラン濃縮の制限撤廃を宣言した時ですら、イランはIAEAの査察受け入れを継続する立場を表明していた(詳しくは「JCPOAのゆくえ#2:破綻過程の進展とイランの現況」R19-10【会員限定】参照)。現在、IAEA側とイラン側の主張は真っ向から対立している。イランによる核開発は、地域、及び、国際社会の安全保障に影響を及ぼす重要な問題であることから、イラン側には説明責任が求められるとともに、慎重に事態を見極める必要がある。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン:米国がイランに対する武器禁輸解除を妨害」No.13

 

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「イラン核合意を巡るイランの強硬姿勢 ~国内的要因を中心とした背景と諸相~」R19-04

・「JCPOAのゆくえ#2:破綻過程の進展とイランの現況」R19-10

(研究員 青木 健太)

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