中東かわら版

№30 GCC:西岸併合問題に関する立場表明

 2020年4月20日に連立合意し、5月17日に発足したイスラエルのリクード・青と白連立政権は、7月1日以降、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸の入植地をイスラエル領土に併合するための法案を提出すると主張してきた(西岸併合問題)。これを背景に、GCC各国のハイレベルによる西岸地区併合への立場表明に関する発言が続いている。イスラエルの連立合意が見られた4月20日以降、現地メディアで報じられた主な発言は以下の通り。

 

表 GCC各国要人による西岸地区併合問題への言及の報道(出所:現地報道)

月日

概要

5/5

●サウジ閣僚評議会は、西岸併合問題を最重要議題の1つと確認

5/10

●UAEのアブドッラー・ビン・ザーイド外務・国際協力相は、アラブ連盟緊急会合で、西岸地区併合は完全な違法行為で、国際社会の中東和平の取り組みを阻害すると批判

※アラブ連盟のアブルゲイト事務局長はイスラエルの動向について、「世界がCOVID-19対応に忙殺されている状況に乗じた」と批判

5/21

●サウジ外務省は自国の立場として、国際法に則った決定のあらゆる違反に反対し、パレスチナ人の独立国家建設のための選択権を支援すると説明

6/1

●UAEのガルガーシュ外務担当国務相は、西岸併合に向けた動きは中東和平プロセスを逆戻りさせるもので、中止しなければならないと非難

6/2

●カタルのムハンマド・ビン・アブドゥルラフマーン副首相兼外相は、パレスチナ領土の併合を目論むあらゆる動きを支持しないと発言。また西岸併合はパレスチナへの人道支援を停滞させると警告

6/10

●クウェイトのアフマド・ナーシル外相は、イスラーム協力機構(OIC)の閣僚会合で、自国の立場として西岸併合に断固反対することを説明、イスラエルによって地域の平和が脅かされることを国際社会が認識する必要があると主張

6/15

●サウジのアブドゥルアジーズ・ワーシル国連大使は、第43回国連人権理事会で、イスラエルが国連決議に背き、パレスチナ人の基本的権利を侵害していると批判し、今後予定される西岸併合が深刻な事案であることを主張

 

評価

 目下サウジを筆頭に、UAE・カタル・クウェイトが西岸併合問題についてイスラエルへの強い批判を表明している。一方、4月20日のイスラエル連立合意の直後にこうした批判が目立たなかったのは、GCC諸国が同23日開始のラマダーン月に向けて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止の観点から対応に追われていたことがあったと思われる。この点、アブルゲイト・アラブ連盟事務局長による「イスラエルはCOVID-19の混乱に乗じた」との批判は的を射たものである。

 では、5月以降に活発化したGCC諸国によるイスラエル批判が西岸併合を阻止するかというと、可能性は決して高くない。各国は「引き続き」パレスチナを支援する、つまりこれまでもパレスチナを支援してきたと強調するが、その支援が政治的影響力を持っていたなら、そもそもイスラエル政府が西岸併合を掲げられなかったはずだ。イスラエル側にとっても、アラブ諸国が「パレスチナの味方」や「西岸併合への反対」を表明すること、そしてそれらが特段の実行力を持ちえないことは想定内である。パレスチナ問題は、かつて中東地域の不安定化の要因と見られてきた。しかし今日では、パレスチナ問題を通してアラブ諸国の様式美に優れた(形式的な)ポジショントークと、これによって一種の国際秩序が保たれいてる様が浮かび上がる。

 もっとも、GCC諸国がパレスチナに関与する目的の1つは、イスラーム世界における自国のプレゼンスやイニシアチブの強化である。したがって、競合国が今以上の関与を示せば、現状以上のパレスチナ支援を行う必要がある。具体的には、トルコやイラン等が西岸併合に転換を迫るほどの外交を展開するようなら、これら2国を地域覇権の障害と見るサウジ・UAEはより影響力の大きい行動をとることを検討するだろう。

 しかしながら、COVID-19拡大によって各国の体力が低下した中、西岸併合阻止への精力的なコミットをできる国は見当たらない。したがって、GCC諸国としては、表に見られるようなこれまで同様のパレスチナ支援・イスラエル批判の立場表明で、外交としては十分ということになる。

(研究員 高尾 賢一郎)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP