中東かわら版

№29 シリア:社会経済危機とハミース首相の解任

 2020年6月11日、アサド大統領はイマード・ハミース首相を解任した。また7月19日に実施予定の人民議会選挙までの期間、フサイン・アルヌース水資源相を暫定首相に任命した。

 ハミース首相解任の理由は、新型コロナウイルス(COVID-19)対策の失敗や、シリア・ポンドの対ドル闇レートの下落や物価高騰といった経済危機とされる。6月11日時点のシリアにおけるCOVID-19累計感染者数は164名、死者は6名と周辺国に比べると少ないが、5月下旬から新規感染者数が増加している。

 通貨下落については、米国の対シリア政府制裁法「シーザー・シリア市民保護法」が6月17日に発動することを受け、シリア・ポンド売りが進んでいる。闇市場での対ドル・レートは5月末に1米ドル=1500ポンドだったところ、6月4日に2050ポンド、8日には3000ポンドにまで下落した。なお、2011年3月にシリアで反政府抗議デモが発生する前は1ドル=47ポンドであった。ポンド下落により物価が高騰し、ダラア県、政府支持者が多いとされるスワイダ県においても、市民数十人がアサド大統領の辞任を叫ぶ抗議デモを行った。

 

評価

 政府発表の数字によれば、シリアにおけるCOVID-19感染状況は他国より深刻度は低い。しかし検査施設が政府支配地域にだけあるため、シリア全土の感染状況を反映した数字であるとは断言できない。他方、5月下旬から新規感染者が増加していることは事実である。3月31日に初の感染者が確認されて以降、1日の新規感染者数が1桁かゼロが続いていたが、5月23日に11名、24日に16名、25日に20名、26日に15名と増えた。6月7日も16名、11日も12名の感染者が確認された。感染者の多くは外国からの帰国者だが、ダマスカス郊外のラアス・マアッラ地区でも感染者が増加している。

 これより深刻な問題が、物価高騰によって市民の政府に対する不満が広がっていることであろう。上記の反政府デモに参加した人数は数十人規模とはいえ、政府支配地域内でアサド大統領の辞任を公然と叫ぶことは極めて稀である。「シーザー・シリア市民保護法」が発動すればさらに物資不足と物価高騰が進むため、市民生活が苦しくなると共に、抗議デモが増える可能性も否定できない。

(上席研究員 金谷 美紗)

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