中東かわら版

№28 アルジェリア:2020年補正予算法の成立で外資誘致が前進

 2020年補正予算案が議会で賛成多数で可決し、6月4日付官報で公開された。今般、新型コロナウイルス感染症の拡大抑制策や国際原油価格の下落を受け、経済が悪化したため、予算の再編成や経済再建策が必要となった。補正予算法の各指標と主な追加政策は以下の通りである。

 表1:補正予算法の各指標

歳入

5兆3958億D(6兆2897億D)

歳出

7兆3727億D(7兆8231億D)

財政赤字(対GDP比)

マイナス10.4%(マイナス7.2%)

予算編成の前提油価

30ドル(50ドル)

予想市場油価

35ドル(60ドル)

予想GDP成長率

マイナス2.6%(プラス1.8%)

予想の石油・ガス輸出額

177億ドル(352億ドル)

※「D」は通貨ディナール。括弧内は2020年予算法の指標。

 

表2:主な追加政策

法定最低賃金の引き上げ

月額1万8000Dから月額2万Dに増加。

低所得者の所得税免除

月収3万D未満の者が対象。

燃料税の引き上げ

無鉛・レギュラーガソリン:17D/ℓ(販売価格:プラス3D/ℓ)

ハイオクガソリン:16D/ℓ(販売価格:プラス3D/ℓ)

ディーゼル:16D/ℓ(販売価格:プラス5D/ℓ)

外資出資比率規制(51/49%ルール)の緩和

外資出資比率を上限49%に制限する措置は、一部分野を除いて廃止。(対象外:エネルギー及び石油・ガス産業や国防省関連産業、鉄道・港湾・空港、鉱業、一部の製薬産業)

新車の輸入規制解除と新車登録税の引き上げ

新車の輸入割当制度が撤廃。新車登録税は下記の料金基準を基に引き上げ。

ガソリン車(排気量800cc以下):10万D

ディーゼル車(排気量800~1500cc以下):20万D

(出所)2020年6月4日付官報第33号

評価

 政府は3月から経済支援策の財源を経常経費の削減などを通じて捻出したことで追加歳出を回避でき、当初予算から約5千億Dの削減を計画している。一方、資源収入が半減し、財政赤字が更に拡大する見通しであるため、厳しい財政状況が続くと予想される。

 補正予算法での注目点は、①燃料税の引き上げ、②外資出資規定の緩和、③自動車産業の制度変更である。まず、①燃料税の引き上げは、燃料補助金に伴う財政負担を軽減し、近年急増する国内燃料消費を抑制する狙いがある。燃料税は2016年から4回引き上げられたが、ガソリン及びディーゼルの値段は他国よりも安価(ガソリンは約0.36ドル/ℓ)である。

 次に、②外資出資比率の規制緩和は大きな政策転換であり、アルジェリアへの投資を促進させる要因になりうる。2009年導入の同規制は、外資の出資比率を最高49%に制限することで、国内企業には出資比率51%以上を確保させ経営上の決定権を付与する。規制緩和の背景には、政府が前政権の政策を変更することで、経済改革を演出する狙いもあると考えられる。

 一方、③自動車産業に関しては、この数年間で制度変更が度重なり、その度に各社に混乱を与えた。2014年からの動きとしては、車両の安全基準の厳格化や新車の輸入割当制度の導入、現地生産の義務化、車両部品の輸入割当制度の導入などがある。

 上記を踏まえ、今後の展望は次のとおりである。①に関して、財政赤字を縮小するには、燃料税の更なる引き上げが必要である。他方、燃料製品の急騰は国民からの反発を招く原因になるため、政府は難しいかじ取りを迫られる。②について、今次規制緩和により、外資参入障壁が下がり、投資促進が見込まれるほか、長年交渉中の世界貿易機関(WTO)への加盟手続きも前進すると期待される。③では、自動車産業の制度変更が新たな利権をつくる可能性があり、汚職の蔓延につながる恐れもある。

(研究員 高橋 雅英)

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