中東かわら版

№27 アルジェリア:AQIM指導者のアブドゥルワドゥード殺害に関する報道

 パルリ仏国防相は6月5日、フランス軍が3日にマリ北部で実施した作戦で、「イスラーム的マグリブのアル=カーイダ(AQIM)」の指導者、アブー・ムスアブ・アブドゥルワドゥード(本名アブドルマーリク・ドゥルークデル)を殺害したと発表した。各報道によれば、殺害場所はアルジェリア国境から約20kmに位置する村タランダクであり、彼とAQIM幹部は同村に集まっていた。今回の作戦により、広報担当シャーイブ・トゥーフィクを含め複数人が殺害され、他1人が拘束されたと報じられている。

 現時点でAQIMは指導者の死亡に関する弔辞声明を発出していない。一方、2019年5月にAQIM諮問評議会のユースフ・アンナービー師に独占インタビューを行ったワーシム・ナセル氏(『フランス24』ジャーナリスト)は、AQIMが指導者の殺害を確認している旨を明かした

評価

 アブドゥルワドゥードはアルジェリアのブリーダ県メフターフで1970年に生まれ、アルジェリア内戦中の1993年にイスラーム過激派「武装イスラーム集団(GIA)」に参加した。1998年にAQIM前身の「宣教と戦闘のためのサラフィー集団(GSPC)」に合流し、2004年6月のナビール・サハラーウィー指導者(当時)の殺害を受け、後任の指導者に就任した。2006年にアル=カーイダのビン・ラーディンに忠誠を誓い、2007年よりAQIM幹部として活動を開始した。

 AQIMはこれまで数々のテロ攻撃や欧米人の誘拐事件に関与した。彼らはアルジェリア政府の打倒や、フランスを中心とする西洋権益への攻撃を目標に掲げ、また近年は関連組織の「イスラームとムスリム支援団(JNIM)」がサヘル地域で存在感を高める。

 アブドゥルワドゥード殺害の可能性について、AQIMと繋がりを持つとみられるナセル氏がAQIMによる殺害確認に言及した点を踏まえると、フランスの情報の信憑性は高いと言える。

 一方、仮にアブドゥルワドゥード殺害が事実だとしても、指導者の死がAQIMの組織活動に及ぼす影響は深刻でないと考えられる。その理由として、JNIM以外のAQIM傘下組織はすでに弱体化したことと、JNIMはある程度自律的に活動していることが挙げられる。

 まず、アルジェリアやチュニジアにおいてAQIMはこの数年、両国の治安当局の掃討作戦により後退した。AQIM戦闘員はカビール地方の山岳地域や両国の国境付近に残存するが、大きな戦果を全くあげられず、人員や資金を継続的に得られるほどの組織ではなくなった。つまり、指導者の生存有無にかかわらず、AQIMがアルジェリアとチュニジアで大規模テロを実施できるほどの勢力を取り戻すのは困難な状況である。

 次に、サヘル地域での活動について、各戦線では「アンサール・ディーン」や「マシーナ解放戦線」などJNIM構成組織がそれぞれ戦術の策定や作戦の実施を行うケースが多いことから、AQIM指導者の殺害自体がJNIMの伸張を阻む要因とはならない。

 他方、フランス軍は2019年にもJNIMナンバー2のヤフヤー・アブー・ハンマームやチュニジアのアンサール・シャリーア創設者アブー・アイヤード・トゥーニシーの殺害にも成功するなど、マリ北部での軍事作戦が時折成果をあげる。ゆえに、同軍が新たな軍事作戦を同地域で展開させることは、JNIMの攻勢に歯止めをかけるだろう。また、サヘル地域拠点の「イスラーム国」が2020年5月にJNIMへの対決姿勢を明確にしたことで、両組織間の衝突が激化していく可能性もある。その場合、「イスラーム国」との闘争によりJNIMの勢力が低下するとなれば、AQIMが組織存続の危機に直面する事態となるだろう。

(研究員 高橋 雅英)

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