中東かわら版

• 2020トルコシリアイラク東地中海地域
• 公開日:2020/05/28

 　

　治安当局は、5月中旬から東部および南東部で、トルコ政府がテロ組織と断定するクルディスタン労働者党（PKK）および関係先への一斉捜査を実施した。

　15日、警察は同捜査の一環として、トルコ東部ウードゥル市長（ウードゥル県）のヤシャル・アックシュをテロ組織に関与した容疑で拘束したと発表した。さらに副市長のアイレム・チェリキも身柄を拘束されたが、20日、出国禁止、司法の監督下に置かれることを条件に釈放された。市長および副市長の職務は、ウードゥル県知事が一時的に代行することとなる。アックシュ氏は、ウードゥル出身の39歳。2019年3月31日の統一地方選挙で、クルド系政党の人民の民主主義党（HDP）から出馬し市長に当選した。22日、地方裁判所はアックシュ氏がPKKのメンバーであると認定、逮捕した。

　また、イラク国境に近い南東部のスィイルト県では、ベリヴァン・ヘレン・ウシュク・スィイルト市長、ペイマンダラ・テュルハン・スィイルト副市長、バラン・アクギュル・同市クルタラン区長、ラマザン・サルシルマズ・同市バイカン区長らがテロとの関りがあったとして逮捕された。

　22日、南東部のディヤルバクルでも一斉捜査が行われ、警察は、元HDP国会議員のアイラ・アカット・アタ、HDPの姉妹政党である民主地域党（BDP）のメフメト・アルスラン、ギュルジハン・シムシェキ元共同党首らを含む18名を拘束した。24日、ディヤルバクル治安裁判所はPKKとの関与が認められるとして、アルスラン、シムシェキを含む12名を逮捕、アタ元議員は釈放された。

　治安当局の動きに対しHDPのギュナイ広報担当は22日の定例記者会見で、与党の公正発展党（AKP）による圧力、不当な拘束など政治的虐殺が継続されているが驚くことではない、我々は戦う決意を一層強くしている、と反発した。

　最大野党の共和人民党（CHP）のファイク・オズトラク副党首は、定例会見で記者からの質問に対し、現在14の市町村でHDP所属の「長」が空席となっていることについて、国民の意志を尊重するのであれば、選挙によって市町村長の選出が行われるべきであり、政府が任命する権利はない、と述べた。

 

評価

　　

　エルドアン政権は、新型コロナウイルス感染症（COVID-19）の拡大下においても、テロとの戦いは継続するとして、シリア北部、イラク北部での対PKK／YPG掃討作戦を断行している。

　一方内政では、PKKとクルド系政党のHDPとのつながりを主張し、同党を激しく非難してきた。南東部のHDP本部前では、PKKが若年層を誘拐または強制徴用する手助けをHDPが行っているとして、子供を奪われた母親らが座り込みの抗議を続けている。

　2019年3月の統一地方選挙で、クルド系住民が多数を占める東部、南東部でHDPの市町村長が誕生しているが、その後、テロ組織との関係を理由として拘束され、停職処分を受けている。

　今回の一斉捜査が実施される前日の5月14日、東部ヴァン県のオザルプ地区で、社会奉仕活動中のソーシャルワーカーが乗った車両が銃撃され、2名が死亡する事件が発生した。治安当局は発生直後から同銃撃はPKKによる犯行と断定し38名を逮捕している。エルドアン大統領も同犯行を非難するとともに、逮捕された38名のうち6名がHDPとのつながりがあった旨声明を出した。政府は言及していないものの、一連の捜査と身柄拘束はヴァンでの事件と関連している可能性も指摘できるだろう。

　トルコでは、3月中旬からCOVID-19感染拡大が深刻化しており、国民に対して外出禁止や都市間移動の制限等、厳しい措置を講じている。今般のテロ捜査との名目によるHDP出身者の一斉摘発は、大多数の国民の関心がCOVID-19に向いている中で、政府がテロ捜査を名目に不穏分子を排除しているようにも見える。

　一方で、追い詰められたPKKが、エルドアン大統領による強権的な手法に反発し、テロを頻発させる恐れもあり、国内の不安定化が懸念される。

  

【参考情報】

 ＊関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 ＜中東かわら版＞ 

・「トルコ：南東部3都市の市長を解任」2019年、№82

 

                                                                                                                                        　　　　        　　　　　

（研究員 金子 真夕）