中東かわら版

№23 リビア:各国による内戦介入の動き

 東部拠点のハフタル率いるリビア国民軍(LNA)が、2019年4月に西部トリポリへの進攻を開始し、1年以上が経過した。トリポリ周辺では国民合意政府(GNA)とLNA間の戦闘が続き、関係諸外国による介入がリビア国内の武力衝突を助長している。最近明らかになったリビアにおける各国の動きは以下の通りである。 

  • 5月7日付『ロイター』によると、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」がLNA支援のため、同社の傭兵800人から1200人を派遣した。
  • 5月15日付『ブルームバーグ』によると、ドバイ拠点の企業2社がLNAの軍事作戦を支援するため、2019年6月に傭兵チームを展開させた。
  • 「シリア人権監視団」は5月17日、トルコがGNA支援のため、主にシリア人の戦闘員8950人を派遣したことを明らかにする。 

 両陣営間の武力衝突が激化する中、ハフタルは4月27日、2015年12月署名のリビア政治合意の破棄を一方的に宣言した。ハフタルの試みは、今年1月のベルリン国際会議での政治対話プロセスの再開に向けた取り組みに反する。同様に、東部勢力のサーリフ代表議会(HOR)議長が4月23日に発表したリビア政治合意の修正を含む新政治行程表(執行評議会のメンバー変更や憲法制定、各選挙の実施など)とも相容れない動きである。そして、ロシアは彼の言動に賛同せず、政治・外交アプローチを通じて紛争の解決を図っていく方針を示した。

 

評価

 こうした各国の動きから、ロシアやUAEがハフタル率いるLNAを支援する一方、トルコがGNAを支援するリビア内戦での対立構図が明確にみられる。特に、トルコによるシリア人戦闘員の派遣規模が注目される。トルコがGNAの軍事支援に踏み切った背景には、昨年11月にGNAと署名した海洋境界合意を維持したい考えなどがある。トルコは支援を通じてGNAに有利な戦況をつくりだすことで、ハフタルに対して武力による国家統一を断念させ、彼に和平プロセスを受け入れさせる狙いがあると考えられる。実際、GNAは今年1月よりトルコの支援を受けて勢力を盛り返し、5月18日にはLNAの重要拠点、ワティーヤ空軍基地(トリポリ南西)の制圧に成功するなど、トリポリの戦局で優勢な立場となった。

 一方のロシアに関しては、この数カ月、ハフタルとの関係が円滑でない側面もみられる。ロシアはリビアでの経済利権や影響力を維持するため、ハフタルや東部勢力を支援しており、国連仲介のリビア政治合意を容認する立場をとる。しかし、4月27日のハフタルによる破棄宣言は、今後の和平プロセスへの道を閉ざしただけでなく、ロシアとHORが共同で起草した新政治行程表を受け入れないという意思表示でもある。ハフタルは今年1月にもロシア・トルコ作成の停戦合意への署名を拒否した。

 今後、情勢の緊張緩和を図るための両陣営間の話し合いが必要となるが、現在は開催が困難な状況である。今年3月、国連リビア支援ミッション(UNSMIL)のサラメ特使が健康上の理由で辞任し、それ以降同ポストが空白になっているため、国連の仲裁の役割は期待できない。また、トルコ、ロシアともに国内で新型コロナウイルスへの対応に追われていることから、両国が1月時のように停戦への取り組みを主導できず、各国の渡航制限も対話開催の障害になっている。したがって、和平プロセスに向けた動きが始まる可能性は低く、ハフタルも全面的な停戦に応じない姿勢を堅持することから、両陣営間の戦闘が収束する見通しはないだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「トルコ・リビア:軍事・海洋境界合意による東地中海諸国の対立」2019年、№164

 

(研究員 高橋 雅英)

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