中東かわら版

№22 クウェイト:公的機関における外国人雇い止めに向けた動き

 2020年5月17日、ワリード・ジャーシム地方自治担当国務相は、政府・地方自治体の公的機関での外国人雇用の全面禁止を進める決定を発表した。これによれば、当該機関は外国人の新規雇用を取りやめ、また現在雇用されている外国人労働者の契約更新を行わず、代わりに業務のオートメーションと自国民雇用を進める。議会は概ね本決定を歓迎し、関連法案の作成に取り掛かる方針だと発表した。ただし、低賃金ながら高い専門性をもつ外国人労働者も少なくないことから、労働者の完全自国民化は一年以内を目処に、段階的に行われる見通し。

 

評価

 クウェイトにおける2019年の外国人労働者割合(推定)、及び2018年の政府機関における外国人労働者割合は以下表の通りである。他のGCC諸国同様、クウェイトでも労働者の自国民化を進める動きが見られる中、本決定はこれを一気に推し進めるための重要な決定と言えよう。

 

図表1 クウェイト国内の労働者における自国民・外国人割合

 

労働者全体(2019年推定)

政府機関における労働者割合(2018年)

クウェイト人

30.2%

75.2%

外国人

69.8%

24.8%

出所:クウェイト中央統計局

 

 一方、このタイミングでの本決定の背景には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大もあると考えられる。COVID-19拡大を受けて、クウェイトでは民間部門の外国人労働者の多くが雇い止めや給与引き下げに直面しているとされる。政府はCOVID-19拡大の影響を受けた企業に対する補償は打ち出した一方、労働者に対する具体的な補償は発表してこなかった(『中東かわら版』No.7参照)。5月13日付現地紙では、民間部門の外国人労働者の一部に対する給料未払いの問題が報じられたが、これについても具体的な救済策は発表されていない。クウェイトでは4月後半よりCOVID-19の新規感染者数の増加が見られ、こうした状況下での労働者の自国民化の推進は、ともすれば外国人労働者の「切り捨て」とも判断されうる。

(研究員 高尾 賢一郎)

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