№21 イスラエル:ネタニヤフ新内閣の成立
2020年5月17日、リクードと「青と白」の連立合意に基づき、リクード党党首で現首相のネタニヤフを首班とする新内閣が発足した。2019年4月の総選挙以来、ネタニヤフ首相は連立形成に失敗し続け、2019年9月、2020年3月と計3回の総選挙が実施されてきた。3月の総選挙後も連立形成が行き詰まるかと思われたが、4月20日にネタニヤフ首相と「青と白」のガンツ代表が連立合意に至り、今回の組閣に漕ぎ着けた。
今次内閣は、ネタニヤフとガンツが交代で首相に就任するという連立合意に基づき成立した。つまり、最初の1年半をネタニヤフが首相を担当し(この間ガンツが副首相)、後半の1年半はガンツが首相となる(この間ネタニヤフが副首相)。首相の交代に際して、国会で改めて内閣の信任を得る手続きはなされない。また1年半後の首相交代の際に、外相、運輸相、高等教育・水資源相、入植地問題相、無任所相のポストでも交代が予定されている。
連立与党には、議会第一党のリクード(右派)の他、「青と白」(中道)、シャス(超正統派)、ユダヤ・トーラー連合(超正統派)、ゲシェル(右派)、ヤミナ(右派)、労働党(中道左派)、デレフ・エレツ(中道右派、「青と白」から離脱)が参加した。連立与党は議会内で全120議席中73議席を占める。
閣僚名 |
氏名 |
所属政党・備考 |
首相 |
ベンヤミン・ネタニヤフ |
リクード党首;首相(1996-99;2009-現在) |
共同体強化・進化相 |
オルリ・レヴィ=アベカシス |
ゲシェル;女性 |
サイバー・国家デジタル問題相 |
ダヴィド・アムサレム |
リクード |
農業・地方開発相 |
アロン・シュースター |
青と白 |
通信相 |
ヨアズ・ヘンデル |
デレフ・エレツ;元軍人 |
建設・住宅相 |
ヤアコヴ・リッツマン |
ユダヤ・トーラー連合;前保健相(2019-20) |
文化・スポーツ相 |
イェヒエル・トロッパー |
青と白 |
副首相・国防相 |
ベンヤミン・ガンツ |
青と白代表;元参謀総長(2011-15) |
国防省付き大臣 |
ミカエル・ビトン |
青と白 |
ディアスポラ問題相 |
オメル・ヤンケレヴィチ |
青と白;女性 |
教育相 |
ヨアヴ・ガラント |
リクード;元移民相(2019-20);元南部方面軍司令官 |
エネルギー相 |
ユヴァル・シュタイニッツ |
リクード;エネルギー相(2015-現在) |
環境保護相 |
ギラ・ガムリエル |
リクード;前社会平等相(2015-20) |
財務相 |
イスラエル・カッツ |
リクード;前外相(2019)、元運輸相(2009-19) |
外相 |
ガビ・アシュケナジ |
青と白;参謀総長(2007-2011) |
保健相 |
ユーリ-ヨエル・エーデルシュタイン |
リクード;前国会議長(2013-20) |
高等・中等教育・水資源相 |
ゼエヴ・エルキン |
リクード;前エルサレム問題相(2015-20)、前環境保護相(2016-20) |
移民統合相 |
ペニナ・タマヌ |
青と白;女性 |
諜報相 |
エリ・コーヘン |
リクード;前経済産業相(2017-20) |
エルサレム問題・遺産相 |
ラファエル・ペレツ |
ヤミナ;前教育相(2019-20) |
法相 |
アヴィ・ニッセンコルン |
青と白 |
労働・社会福祉相 |
イツィク・シュムリ |
労働党 |
公共治安相 |
アミール・オハナ |
リクード;前法相(2019-20);元軍人・シンベト |
地域協力相 |
ギルアド・エルダン |
リクード;前公共治安相・戦略相・情報相(2015-20) |
宗教問題相 |
ヤアコヴ・アヴィタン |
シャス;アシュケロン市議会議員 |
科学技術相 |
イズハル・シャイ |
青と白 |
入植地問題相 |
ツィピ・ホトヴェリ |
リクード;前外務副大臣(2015-20)、前ディアスポラ相(2020) |
社会平等・少数派問題相 |
メイラヴ・コーヘン |
青と白 |
戦略問題相 |
オリット・ファルカシュ-ハコーヘン |
青と白 |
経済相 |
アミール・ペレツ |
労働党党首;元環境保護相(2013-14)、元副首相・国防相(2006-07) |
内相 |
アリエ・デリ |
シャス;内相(1988-92;1993;2015-現在)など |
観光相 |
アサフ・ザミール |
青と白;元テルアビブ副市長 |
運輸相 |
ミリ・レゲヴ |
リクード;前文化・スポーツ相(2015-20);元軍報道官;女性 |
無任所相 |
ツァヒ・ハネグビ |
リクード;前地域協力相(2016-20) |
(出所)イスラエル国会(クネセト)、現地紙より筆者作成。
評価
組閣期限の4月15日に連立合意に至らなかった際には4回目の総選挙の可能性が取り沙汰されたが、ようやく正規の内閣が成立した点はコロナ問題を始め様々な社会経済問題に取り組む体勢を整える上で評価できる。しかし、リクードのライバル政党である「青と白」のガンツ代表がネタニヤフ首相との連立に舵を切ったことで、「青と白」の内部でガンツ代表に対する反発が生まれ、離脱組が現れた。また、首相の交代については市民団体から非合法であるとの批判を受けている。
新しいネタニヤフ内閣は、中道から右派の政党で構成される連立内閣である。今後の政権運営で最も注目されることは、ネタニヤフ首相が公言している7月からの西岸入植地のイスラエル併合である。「青と白」のガンツ副首相兼国防相やアシュケナジ外相は入植地の一方的併合が及ぼす国内・地域的影響を危惧し、国際社会との合意のもと併合を支持する立場である。和平交渉に最大の影響力を有する米国のトランプ政権は、入植地併合は基本的にイスラエルが決定する問題であるとの姿勢から、併合に反対しないと考えられる。したがってネタニヤフ首相、ガンツ副首相兼国防相、アシュケナジ外相との政策調整が今後の注目点であろう。またパレスチナ自治区内でイスラエル軍とパレスチナ住民との衝突が生じることも避けられない。西岸入植地併合という政策を掲げ、政権内対立やパレスチナ住民との衝突が危惧される中、当初の連立合意に従い、ネタニヤフ首相は1年半後に首相の座をガンツに譲るのかどうかという問題も存在する。
【参考情報】
<中東かわら版>
・「イスラエル:総選挙の暫定結果」2019年、No.11・「イスラエル:議会選挙前の動向」2019年、No.92・「イスラエル:選挙の最終結果と組閣の動き」2019年、No.103・「イスラエル:ネタニヤフ首相の組閣失敗(2回目)」2019年、No.122・「イスラエル:再々選挙の暫定結果」2020年、No.188・「イスラエル:ガンツ代表による組閣の失敗、新しい首相候補の選出へ」2020年、No.9
<雑誌『中東研究』>
(上席研究員 金谷 美紗)
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