中東かわら版

№20 アフガニスタン:包摂的な政府の樹立と含意

 2020年5月17日、昨年9月に実施された大統領選挙の最終結果を巡って対立していたガニー大統領とアブドッラー前行政長官は政治合意文書に署名し、包摂的な政府の樹立に合意した。今次合意の概要は以下の通りである。

 

国家和解高等評議会に関して

  • 国家和解高等評議会の設立:双方でなされた本政治合意に基づき、国家和解高等評議会を設立する。本評議会の議長として、アブドッラーが和平過程を統率する。
  • 議長の権限:和平過程の統率、本評議会の主宰、和平問題担当省の人事権を含む。
  • 国家和解高等評議会の権限・業務:和平過程に関わる諸事項の決定、承認、指導等を含む。議決は、本評議会における多数決による。本評議会により任命された交渉代表団は、議長から与えられた任務を遂行し、議長に対して報告する義務を負う。本評議会の業務には、国内外での和平に向けた合意の形成、及び、和平・復興過程における国際支援の獲得を含む。

 

ドーストム将軍の去就に関して

  • ドーストム将軍(前第一副大統領)を元帥に昇格する。元帥は、国家高等評議会(国家の重要事項に関して大統領に進言する機関)、及び、国家安全保障評議会の構成員となる。

 

閣僚職の配分に関して

  • 国家和解高等評議会議長は、主要省庁含む閣僚職の50%を任命する権利を有する。
  • また、同議長は、州知事職についても署名者同士の合議に基づき任命する権利を有する。
  • これら職への候補者の任命に際しては、当該人物の資質、及び、法律に則って決定される。事情に応じ、交代、あるいは罷免が可能である。

 

政治合意の有効期間に関して

  • 本政治合意の有効期間は、現政権が終了するまでである。

 

 17日、米国のポンペオ国務長官はガニー大統領、アブドッラー前行政長官の両名と電話会談し、包摂的な政府の樹立に対して祝意を伝えるとともに、米国にとっての最優先事項は政治的手段によって紛争を解決することだと述べた

 また、同日、ターリバーン・カタル政治事務所のシャヒーン報道官は、今次合意は過去の失敗の繰り返しに過ぎないと批判し、ドーハでの合意を遵守することがアフガニスタンにおける真の問題を解決する唯一の道だとして、囚人交換を拒絶するガニー大統領を非難した。

評価

 アフガニスタンでは2019年9月28日に大統領選挙が実施され、本年2月18日にガニー大統領の勝利が確定したものの、アブドッラー前行政長官がこれを受け入れず並行政府樹立を宣言し、事実上の「一国二政府」状態に陥っていた(詳細は「中東かわら版」No.182参照)。こうした政治的混乱に加えて、同国では新型コロナウイルスの感染拡大が続くとともに、雪解けに伴う戦闘シーズンの到来によって治安情勢が悪化傾向にあり、全体的に社会不安が覆っていた。先行きが不透明な状況下で、ガニー政権側は、国家和解高等評議会議長職を創設しアブドッラー氏の不満を解消したことで、約8カ月に及ぶ大統領選挙過程は一応の収束をみせた。この意味で、今次合意は、上述の諸課題を解決する上で明るい材料だといえる。

 他方、今次合意の含意として、(1)権力争いの再発、及び、(2)和平過程への影響、の2点が考えられる。上記(1)に関し、閣僚、及び州知事職の配分・任命を巡って、両者が妥結するのは容易ではないとみられる。2014年の大統領選挙でも同様の政治合意が結ばれ、次点だったアブドッラー氏が行政長官職に就任し、挙国一致政府が誕生した。しかし、2年以内にロヤ・ジルガ(国民大会議)を通じてこの行政長官職を首相職に格上げするとされていたものの、結局約束は果たされなかった。それ以降、ガニー大統領が側近を登用するなど権力を私物化し、両者の間の溝はさらに深まった経緯がある。

 また、上記(2)に関し、ターリバーン「政権」時代(1996年~2001年)にターリバーンと勢力圏を巡り敵対していたアブドッラー前行政長官を、国家和解高等評議会議長に任命したことが、今後の和平過程の進展に向けて肯定的に働くかは未知数である。ターリバーン側からすれば、アブドッラー率いる国家和解高等評議会からの和平への呼びかけに応じることは容易ではないと考えられる(※注1)。今次合意で元帥に昇格したドーストム将軍も対ターリバーン強硬姿勢で知られており、対話を通じた国民和解に向けて不安要素といえる(※注2)。

 ターリバーン側はドーハ合意に則りアフガニスタン人諸勢力間の協議開始を追及する姿勢を示している。これに対し、ガニー政権側が、軍事的手段ではなくあくまでも対話を通じてターリバーンに和解を呼び掛けられるか否か、が今後の情勢を見る焦点となるだろう。

 

※注1:アブドッラー前行政長官は、イスラーム協会のラバニー指導者、及びマスード将軍の側近として頭角を現し、ターリバーン「政権」時代(1996年~2001年)にはターリバーンと勢力圏を巡り敵対していた間柄である。実際、和平高等評議会(和平問題を担当していた政府の機関)で議長を務めたラバニー指導者は、2011年9月に面会に来た者によって爆殺されている。

※注2:今般の人事は、ドーストム将軍が有する多大な軍事・政治的影響力を考慮した上でなされたと考えられる。一方、同人には、過去に北部同盟(ターリバーンに対抗して北部を統治した連合勢力)に投降したターリバーン囚人約1500人をコンテナ上から銃殺した嫌疑もある。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「アフガニスタン:大統領選挙前の動向」2019年No.102

・「アフガニスタン:大統領選挙暫定結果を巡る抗議デモの発生」2019年No.148

・「アフガニスタン:大統領選挙が過去最低の投票率を記録」2019年No.161

・「アフガニスタン:大統領選挙最終結果の発表」2019年No.182

・「アフガニスタン:米国・ターリバーン間の和平取引合意と不安要素」2019年No.185

 

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「アフガニスタン和平の現状と展望 ――ターリバーンの軍事・政治認識を中心に」R19-13

・「新型コロナウイルスの流行と一進一退するアフガニスタン和平過程」R20-03

(研究員 青木 健太)

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