中東かわら版

№19 中東:新型コロナウイルスへの各国の対応#4(経済活動再開に関する動き)

 中東諸国の一部に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止の一環で講じてきた経済活動の制限を緩和する向きが見られる。主な動きは下表の通り。

国名

概要

アフガニスタン

●特になし

●西部ゴール州で政府の食料配給を受け取れなかった群衆と治安部隊が衝突、死傷者発生(5/9)

アルジェリア

●アルジェ県で自動車産業や農業等の一部分野での活動再開(4/4)

イエメン

●特になし

イスラエル

●ショッピングモール・小売店が日曜のみ営業再開(5/4)

イラク

●食料品市場の再開(4/20)

イラン

●低リスク商業活動(小売店等)が段階的に再開(4/11、テヘランは4/18)

●感染者・死者数が低下した地域での活動再開方針の発表(4/26)

●南西部フーゼスターン州で商店を再度閉鎖(5/11)

エジプト

●国内客限定でホテルの営業再開(5/4)

オマーン

●一部分野における就業制限の緩和を決定(4/29)

カタル

●両替業務、及びショッピングモール外の飲食店の対面営業を再開(5/12)

クウェイト

●組合加入の自動車修理店及びガススタンドの営業再開(4/27)

サウジアラビア

●ショッピングモール・小売店が営業再開(4/29)

シリア

●公共・民間交通機関の再開(5/10)

チュニジア

●小売店(美容院を除く)・タクシー等の営業再開(5/4)

●一部分野で就業制限の緩和(5/4)

トルコ

●ショッピングモール、理美容店の営業再開(5/11)

バハレーン

●小売店が営業再開(4/9)

●生活用品の対面販売が再開(5/6)

パレスチナ

●ガザ地区のレストランが営業再開(4/27)

モロッコ

●特になし

ヨルダン

●飲食店・映画館等を除く経済活動が再開(5/6)

リビア

●特になし

レバノン

●食料・農業部門、小売店・ホテル・一部工場が再開(4/27)

●レストラン・カフェ、車修理工場が営業再開(5/4)

●再び都市封鎖(5/12-18)

UAE

●ドバイのショッピングモールが営業再開(4/26)

●アブダビのショッピングモールが営業再開(5/2)

●ドバイのショッピングモールや小売店における返金・返品、試着室使用を許可(5/13)

※営業再開の場合も、マスク着用や社交距離の確保が義務とされる場合が多く、入店者の年齢制限等もある。

出所:報道をもとに作成

 

評価

 上表の通り、多くの国で4月下旬から経済活動の制限を緩和する動きが見られる。ただし、これはCOVID-19拡大が収束に向かっているためでは決してない。イスラエル・チュニジア・パレスチナを除けば、新規感染者と死者数の推移は横ばいか、増加傾向が見られる。

 この状況で各国が経済活動が再開に向かう主な理由は国内経済低迷への懸念である。とりわけ3月以降の石油価格急落を受け、アルジェリアやGCC等の産油国は収入が低下し、地域全体の財政悪化が予想される中(以下表)、せめて国内消費を促したい思惑が各国に見られる。

 

石油

2019

2020(予想)

GDP成長率

輸出国

-0.8%

-4.2%

輸入国

3.5%

-1.0%

財政収支(対GDP比)

輸出国

-3.0%

-11.8%

輸入国

-7.3%

-8.5%

経常収支(対GDP比)

輸出国

-2.7%

-5.8%

輸入国

-5.4%

-4.9%

出所:Regional Economic Outlook: Middle East and Central Asia, IMF, April 2020.

 

 経済活動が再開に向かうもう一つの理由はラマダーン月である。『中東かわら版』No.11の通り、4月24日(23日夜)のラマダーン月開始にあわせて、一部の国では外出禁止や食料品店営業規制を緩和する動きが見られた。おそらくこれを契機に、各国でラマダーン月とは必ずしも関係ない経済活動も緩和する機運が醸成されたと考えられる。

 もっとも、経済活動の再開がCOVID-19拡大の収束に起因したものでないことは認識されている様子だ。例えばサウジアラビアでは、現時点で経済活動の一部を再開させる一方、ラマダーン月後の祝日期間には外出禁止制限を強化する方針が示され、またクウェイトでは外出禁止範囲を国内全土とするよう求める声が政府内で上がり始めた。イランやレバノンのように再度経済活動を制限した国もある。困難な経済状況の一方、ラマダーン月を消費の好機として必要以上に頼れば、COVID-19拡大の収束は一層遠のく危険がある。

(中東調査会)

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