中東かわら版

№15 イラク:カーズィミー新首相の承認

 2020年5月6日、イラク国会は4月9日に首相候補に指名されたムスタファー・カーズィミー元国家情報局長の首相就任を承認した。同首相は、昨年11月にアブドゥルマフディー首相が辞任を表明して以来、アッラーウィー元通信相、ズルフィー前ナジャフ県知事に続く3人目の首相候補であった。同首相は現在のCOVID-19拡大防止(※)に向けた努力、また昨年以来の抗議デモによる死者や逮捕者への補償に取り組むことを発表した。一方、各政治勢力からはカーズィミー首相が作成した閣僚名簿への不満の声も漏れ、内相、国防相、財相・電力相は承認されたものの、石油相、外相、司法相、農業相、貿易相については合意が得られなかった。

※5月6日時点のイラクにおけるCOVID-19感染者数2480名/死者102名/回復者1602名

 

評価

 首相候補に指名されて以来、各勢力の利害調整が期待されたカーズィミー氏だったが、4月28日には法治国家連合代表のヌーリー・マーリキー元首相が内閣参加への拒否を発表するなど、組閣が難航した。今般の首相承認を経ても一部閣僚が不在のままである。見切り発車と言えなくもない首相承認を後押しした背景としては、①石油価格下落を受けた財政危機、②COVID-19拡大、③昨年末からのイラクを舞台としたイラン・米国の軍事的緊張、そして④「イスラーム国」への警戒が挙げられる。とりわけ④については4月末以降、北部諸都市でのイラク兵殺害が目立つことから、首相不在の政治的混乱が同組織の活発化を招いているとも言われてきた。こうした事情から、新首相の承認を各勢力が諸手を挙げて賛成した結果と見るのは早計であり、むしろ要職が空席のまま上記①〜④の課題に取り組む新内閣の船出は、非常に困難な状況にあると言わざるをえない。

(研究員 高尾 賢一郎)

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