中東かわら版

№16 アフガニスタン:新型コロナウイルス対策事情(生活困窮による抗議行動の発生)

 2020年5月9日、西部ゴール州都フェローズ・コー市の州知事庁舎前で、群衆と治安部隊が衝突し、少なくとも6名(警官2名含む)が死亡、19名(警官10名含む)が負傷した。5月9日付『BBCダリー語』によると、事件の顛末は以下の通りである。初めに、政府による食料配布を受け取れなかったことから、200名規模の群衆が不公平だとして穏やかな抗議行動を開始したが、時間の経過とともに州知事庁舎に投石するなど暴力性を帯びた。鎮圧のため、警察が群衆に向けて発砲したが、群衆側にも武装した者が混じっていたことから、双方に死傷者が生じた。本事件を受け、ハーゼ州知事は、「当初の予定では3000世帯にナン(注:アフガニスタンの主食)を配布する予定だったが、大統領と調整を図り、更に2000世帯に追加配布する予定だ」と発言した。

評価

 本事件の背景には、新型コロナウイルス(COVID-19)拡大防止策の実施に伴って、アフガニスタンで人々の生活困窮が深刻化していることが挙げられる。アフガニスタンでは、4月23日に日別感染者数が100名を超えるなど、最近になりCOVID-19が顕著な拡大傾向を示している(図1参照)。アフガニスタン政府は、感染源とみられるイランとの国境封鎖、検査・治療体制の整備等の諸措置を講じ、特に3月28日からは首都カーブルの都市封鎖と商業活動閉鎖を断行した(5月29日まで継続予定)。他方で、これらにより収入源を断たれて、失業や収入減に喘ぐ生活困窮者も増加している。5月初旬から、アフガニスタン政府はこうした生活困窮者救済のため食料配布を開始したが、行政の汚職による不公平な分配が問題視されていた。今般、人々の生活が日に日に苦しくなる中、人々の溜まった不満が政府の対応に向かったとみられる。

 

図1 アフガニスタンにおけるCOVID-19による日別感染者数の推移

(出所:保健省発表を基に筆者作成)

 

 一方で、人々が生活困窮に直面する要因には、アフガニスタンが6カ国に囲まれた内陸国であるが故に、COVID-19拡大防止に伴う陸路閉鎖及び空路減便等で、物価が高騰していることも挙げられる。こうした物価高騰は、上述の失業・収入減と合わせて、人々の経済状況をさらに苦しいものにしている。このような厳しい現実に鑑みれば、アフガニスタンは、COVID-19拡大による感染者・死者数の増加に加えて、経済状況の悪化に伴う深刻な社会不安も懸念される局面にあるといえる。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「新型コロナウイルスの流行と一進一退するアフガニスタン和平過程」R20-03

(研究員 青木 健太)

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