中東かわら版

№14 イラン:新型コロナウイルス対策事情(モスクでの集団礼拝の再開)

 2020年5月4日、イランは全国の132郡でモスクでの集団礼拝を再開した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の抑え込みを受けて、4月26日、ロウハーニー大統領は感染者・死者数の推移に応じ、国内を白、黄、赤の三地域に色分けして社会経済活動を段階的に再開する方針を示していた。今般、ロウハーニー大統領は、5月4日から白地域に分類される全国の132郡でモスクを再び開放し、金曜日には集団礼拝を行うとCOVID-19対策タスクフォースで発言した。訪問者には、マスク・手袋の着用や適正な社交距離の確保等が義務付けられた。

評価

 イランでは2月19日に初のCOVID-19患者が確認されてから蔓延が続いていたが(「イランにおける新型コロナウイルス感染拡大の諸要因」R20-01【会員限定】参照)、4月11日から低リスク商業活動を再開し、宗教施設についても時期を見計らって再開する方針を打ち出してきた。今般、宗教施設の再開に踏み切った背景には、COVID-19の日別感染者数・死者数が減少傾向を示していることが挙げられる。日別感染者数は、3月30日の3186名をピークに緩やかに減少している(図表1)。同じく、日別死者数も4月4日の158名をピークに減少している(図表2)。これらに鑑みて、当局は、3月中旬から講じた都市間移動禁止、及び、商業施設閉鎖等の諸措置が拡大防止に役立ったと判断したと考えられる。

 

図表1 イランにおけるCOVID-19の日別感染者数の推移

 

(出所)保健省発表を元に筆者作成。

 

図表2 イランにおけるCOVID-19の日別死者数の推移

(出所)保健省発表を元に筆者作成。

 

 今般の措置がとられたもう一つの理由としては、宗教界に配慮せざるをえないイラン政府の事情も考えられる。イラン政府はCOVID-19拡大防止のため宗教施設閉鎖措置を講じたが、3月16日にはこれを不満に思う群衆が、シーア派の聖地である東部マシュハド市のイマーム・レザー廟と中央部ゴム州にあるマアスーメ廟で抗議活動を起こした。イラン政府としては、国内で政治・社会的に強い影響力を有する宗教権威及びその支持者らの不満に対して配慮を示す必要に迫られ、一定の条件を課した上で再開を認めたものとみられる。

 他方、性急な社会経済活動の再開は感染の再爆発を招く恐れもあり、医学・疫学的見地からは慎重な対応を要する。4月上旬からピークアウトの傾向がみられるとはいえ、直近の日別感染者数・死者数は微増している。抑え込みに向けて、引き続き厳しい拡大防止策の徹底が求められるだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・イラン

イラン:新型コロナウイルス感染拡大の背景と影響」『中東かわら版』2019年No.200

イラン:新型コロナウイルス対策事情」『中東かわら版』2020年No.5

 

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「イランにおける新型コロナウイルス感染拡大の諸要因」R20-01

(研究員 青木 健太)

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