中東かわら版

№13 イラン:米国がイランに対する武器禁輸解除を妨害

 2020年4月29日、米国のポンペオ国務長官は記者会見で、本年10月に迎えるイランに対する武器禁輸措置の解除を妨害する姿勢を示した

 翌30日、米国のフック・イラン担当特別代表が示した方針は以下の通りである。

 

  • 2020年10月18日、イランに対する武器禁輸措置が解除される予定だが、我々は当該措置を決して解除させてはならない。
  • 最大の失敗は、JCPOAにサンセット条項(注:JCPOA採択の日(2015年10月18日)から一定の年月が経過すると失効する条項)が盛り込まれたことである。これまでイランがシリアやイエメン等に、小火器、迫撃砲、ミサイル等を輸出し続け、中東を不安定化させてきたことに鑑みれば、当該措置の解除を許してならないことは明白である。
  • (記者からの質問に応え、)国連安保理決議第2231号の10パラを見ると、米国はイラン核合意(JCPOA)の参加国(the “JCPOA” participants)の一つと明記されている。また、同決議の11パラによれば、JCPOA参加国は(紛争解決メカニズム発動などの)権利を有する。
  • このように、国連安保理決議第2231号に書かれていることを素直に読めば、米国にはイランに対する武器禁輸措置の延長を要請する正当な権利がある。

 

 4月30日、EUのボレル上級代表は、もはや米国がJCPOAの参加国でないことは明らかだ、と『RFE/RL』(アメリカ資本)の独占取材に対して発言した。

 また、イラン政府国連代表部のラヴァーンチー大使は、米国の動きは国連安保理決議違反だとして反論した。

評価

 国連安保理決議第2231号アネックスB第5項によれば、イランは2020年10月18日には武器禁輸を解除されることとなっていた。米国は、昨年6月のペルシャ湾でのタンカー攻撃事件、及び、昨年9月のサウジアラムコ石油施設に対する攻撃等の首謀者はイランであると断定するなど、イランが地域不安定化の源泉だと認識している。今回、米国が武器禁輸措置の延長を画策するのは、かかる状況認識を踏まえた上で、解除日を約6カ月後に控えて、JCPOA当事国、及び、国連安保理に対する外交的働きかけに要する時間を考慮してのことだろう。

 今後、イランは、米国の首尾一貫しない姿勢に強く反発するとみられる。もう一つの焦点は、JCPOA当事国である英、仏、独、中、露の5カ国が米国の主張に同調するか否かである。EUのボレル上級代表の発言にみられる通り、2018年5月に一方的に離脱を宣言したにもかかわらず臆面もなくJCPOAの参加国のままであると主張する米国の姿勢を、欧州を含む諸外国が受け入れる可能性は現時点では低いとみられる。特に、イランが武器輸出入を再開することで利益を得られる中国やロシアが反発することは避けがたい。但し、JCPOA当事国と一口にいっても、必ずしも一枚岩ではない。過去、英国のジョンソン首相がJCPOAに代わる合意を作るべきと発言し、トランプ大統領に同調したこともある。このため、今回の米国の問題提起を受けて、JCPOAに代わる新しい枠組みに向けた議論が再燃する可能性は残る。

(研究員 青木 健太)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP