中東かわら版

№12 アルジェリア:新型コロナウイルス対策事情(財政面への影響)

 アルジェリアでは、2020年3月12日に新型コロナウイルスによる初の死者が確認された。それ以降も感染拡大に歯止めがかからず、4月23日時点で感染者数が3007人、死者数が407人に達し、致死率も14%を記録する。感染者はほぼ全ての県で確認されており、県別の感染者数では北部ブリーダ県が最多である。こうした状況を受け、タブーン政権は拡大防止対策として、国内全てのカフェやレストラン、店舗(食料品店や薬局を除く)の閉鎖、都市間移動の禁止、外出禁止令などの措置を講じてきた。

 また、タブーン政権は国民生活や企業活動に対して経済支援を図るため緊急経済対策に乗り出した。国民に対する経済補償策として、貧困世帯に月額1万ディナール(約8500円)が支給され、一時帰休中の公務員給与は維持される見通しである。一方、これら以外の民間部門の従業員やインフォーマル経済で生計を立てている労働者に対しては具体的な補償策を打ち出していない。

 

評価

 感染拡大が続いている要因として、アルジェリアが抱える医療体制問題が挙げられる。国内医療機関は慢性的な人員不足により、絶え間なく運び込まれる感染患者に対応が追いつかず、かつ医療従事者ら自身の感染によって感染者対応が難しくなっている。こうした脆弱な医療体制は2018年に国内でコレラが流行した際にも問題視されていたが、状況は改善されないままであった。

 加えて深刻なのは、アルジェリア財政が緊急経済対策に伴う負担増に耐えられない可能性があることである。財政状況は2014年半ばからの油価下落を契機に悪化し、財政赤字の補填に使われてきた余剰財源「歳入調整基金(FRR: Fonds de Régulation des Recettes)」の残高はすでに枯渇している。

 緊急経済対策が財政状況を圧迫するなか、最近の国際原油価格の下落や欧米諸国の経済停滞が、総輸出額の約95%を占めるアルジェリアの石油・ガス輸出収入に大打撃を与えることも懸念される。そもそも財政状況が悪化している状況で、資源輸出収入が当面改善しない見通しであることに鑑みると、タブーン政権による上記のような大規模な経済補償策の実施は困難であると言わざるをえない。こうした経済危機をタブーン政権が乗り切ることができるか否かは、国民の政府への支持にも影響を及ぼすため、同国の政治動向、ひいては政治体制の安定性にも影響すると考えられる。

 【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「新型コロナウイルスの感染拡大と財政問題に揺れるアルジェリア」R20-02 

(研究員 高橋 雅英)

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